演説
「では、まずは会長候補の演説です。2-3
進行役のその指示と共に、壇上を歩くのが今回の対抗候補だ。一体、どんな策を用意してきたのだろうか。
「みなさん、こんにちは。会長候補の佐久間と申します。突然ですが、皆さんは勉強と遊びなら、どちらのほうがお好きでしょうか?」
開幕一声の問いかけ。辺りがざわつくが聞こえる声は遊び派閥一頭だった。
「はい、ですよね。学生の本分ができませんいくら勉強だとはいえ、遊びたい生徒は多いはずです。そこで、私が会長になったら一つ、確実に実現させることがあります」
そう言って、彼は突如横から入ってきた生徒から何かを受け取り、大々的にそれを開いた。
その内容を見た生徒は、ほぼ全員が目を見張り、先生は慌てだした。
「この内容通り、私が生徒会長になったら、温水プールを建設し、しかも放課後1時間開放を実現します!」
彼の演説に「マジかよ!」「サイコー!」などという声もあれば「そんなことできるわけ無いだろ!」といった実現性を否定する声も飛んだ。
「プールサイド等には無人の売店をいくつか設置し、毎日決まった数ではありますが、焼きそば等を販売します!」
しかし、本当にどのようにして実現するのだろうか。この好条件を聞き、徐々に不安と嘘じゃないかという疑惑が蔓延し始めた。
「そして、これらを確実に実現する確固たる証拠はこちらです!」
彼はそう言うと、なにか音声を流した。辺りが一瞬でしんとなる。騒いだ生徒すらも、すぐに。
『ですから!いいですよね?』
『……はあ…よかろう。ただし、君が生徒会長になったらね』
『は、はい!頑張ります!校長先生!!!』
それは、彼と校長の会話記録。生徒と先生の視線は一斉に校長を向いた。
「このように!私は遊び場を確実に設置できます。何やら固いことなんて、必要がない!今、我々に必要なものはきつい勉学じゃなく、その勉学を頑張った先にあるいわば“ご褒美”なのです!ですからみなさん!私に清き一票を、この立花によろしくお願いします!以上です!」
深々とお辞儀。その瞬間、しんとしていた体育館からは瞬く間に割れそうなほどの拍手喝采が起こった。口笛を吹くものや、「よくやった!!!」という声を上げるものなど、とにかく、めっぽう支持されているのは間違いなかった。
「………なあ、あいつなると思う?」
ふと隣から拓哉がそう聞いてきた。
「…いや、ならないと思うよ」
「そうか?あいつの今のスピーチ、結構好評じゃん」
「今は、ね。後で冷静になれば、きっと伊豆奈を選ぶはずだよ」
「相変わらずお熱いこと」と言っているが、こいつも不服そうな顔をしていた。そりゃそうだ。なにせ絶対に僕らはそこへ赴くことはないのだから。それに、温水プールがあったところで、泳ぎが下手だったりプールが嫌なやつだっている。支持されはしたものの、きっとなりはしない。
「お静かに!それでは、続いて2-1浜宮伊豆奈さん、お願いします」
「はい」と言って美しく立ち上がる。一歩一歩に凛々しい花が咲くような錯覚をしてしまう。
「お、お前の彼女、本気だな」
「もちろん。自慢の彼女だよ」
マイクの前で一礼。辺りから拍手がなる。先程の興奮がまだ余韻として残っているのだろう。
マイクに声が届く位置まで歩き、彼女は開口一番にこう問いかけた。
「……みなさん、温水プールがいいんですか?」
こっからは、周りの熱気を伊豆奈のものにするターンだ。
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