1日目 終わりまで
「まもなく、当水族館名物、『夢のイルカショー』が開演します。二階西奥より入りいただけます。館内にある誘導看板をご参考に…」
僕らは先にどこにイルカショーのステージがあるか把握していたから、すでに到着済みだ。
おかげで空いていた最前列に僕らは腰掛けることが出来た。
「やっぱ、水かけられたりするのかな~?一応レインコート持ってきてるから着よ~」
「ありがと。ありがたく着させてもらうよ」
ずっと伊豆奈の鞄に入っていた、レインコート。ドキドキしないわけがない
袖を通すと、ふわっと香る伊豆奈の匂い。いっぱいに包まれた僕は、伊豆奈のほうを見ないようにして数秒にやけていた。
しばらくして、客がパンパンに入ったところで、開幕と言わんばかりに音楽が鳴り始めた。
「お待たせしました。これより、我々トレーナーとイルカちゃんたちで練習してきたショーを披露します!私たちとイルカちゃんのコンビネーション、ぜひご覧ください!」
そう言ってお辞儀をすると、観客から割れんばかりの拍手が飛び交った。もちろん、僕も伊豆奈も。
「わあ…楽しみだね!」
「うん。楽しみ」
「さぁ!まずはこの子!我が水族館1の大道芸師!アシカのアッシーによる大道芸だ!」
そう言ってやってきたアシカは、トレーナーと一緒に水槽の前の中心へとやってきた。
「実はこの子、体重が300㎏もあるんです!でも心配はございません。そのおっきな体に反して…」
そう言って、彼は魚を10センチ前に高く放り投げた。アシカは、ものすごい勢いでその魚の元へダッシュし、その魚を一口で食べた。
「はい!拍手!」
パチパチパチと僕らは二人手をたたいた。
「かわいいね!侑斗くん!」
「かわいい。とっても」
というものの、実は僕はほとんど伊豆奈しか見てなかったりする。
その後も、いろいろなことをやってのけ、その度に伊豆奈がキャッキャとかわいらしくはしゃいでいるのがとてもかわいかった。
「…というわけで!アシカのアッシーでした!またね~ばいば~い」
気が付くと、アシカはまたトレーナーに連れられて袖へと戻っていった。
その後もシャチだったりイルカだったりが様々な演技をしたけれど、僕には伊豆奈の可愛さしか目に入らなかった。
「はぁ〜面白かったぁ〜」
「結構水かけられちゃったね」
僕らはあのあと、イルカのダイビングなどで上がった水しぶきを何度ももろに食らった。その結果、被害は抑えれたものの、少なからずカバンが濡れてしまった。
「あはは、ほんとにね〜」
「でも伊豆奈も楽しそうだったし、僕はとっても楽しかったよ」
そう言うと伊豆奈はギュッと抱きつき、
「私も!」
と、屈託のない笑顔でそういった。
僕は数瞬迷い、伊豆奈を抱きしめ返した。
「…じゃあ、この後は旅館に戻るんだっけ?」
「うん。あ、でもその前に、お土産屋さんに行ってもいい?」
「もちろん」
僕らは手を繋ぎ、土産屋へと入った。
中にはお菓子やぬいぐるみ等が売られていて、家族連れや僕らと同じカップルが一生懸命お土産を選んでいた。
そんな中、伊豆奈はあるぬいぐるみをじっと見つめていた。
「…欲しいの?」
僕がそう聞くと、伊豆奈は申し訳無さそうにコクリと頷いた。
「どれが欲しい?」
「この、イルカのやつ…でも、高いし…」
値札を見ると、その金額は大体10000円程だった。
「なんだ、いいよ。買ってあげる」
「ほ、本当!?」
僕は母親から貰ったお金があって、かなり余裕があったのもありその大きなぬいぐるみを買ってあげることにした。
「じゃあ、侑斗くんは何が欲しい?」
「う〜ん…」
おっきなぬいぐるみを抱きしめながら伊豆奈は上目遣いをして、そう聞いてきた。
「…じゃあ、今度は伊豆奈の方からキスして。なんてね」
僕は冗談混じりにそう言った。
だけど、伊豆奈は立ち止まって。僕が不思議に思って止まると、ふっと近づいて、唇を重ねてきた。
「…はい」
「…ありがと」
もう一度。伊豆奈は僕にキスをした。さっきより少し長めに、噛みしめるようなキスをしてきた。
「…このあと、どうすればいいのかな?」
「まあ、普通にすればいいんじゃないかな?」
僕らはさっきよりも近づいて、そのまま旅館へと向かった。
「うはー!楽しかったぁ!」
「楽しかった〜」
僕らは部屋につくなり、今日何が一番楽しかったかと言う話になった。
色々と回った今日の出来事をもう一度深く心に刻みあった。
「はあ、でもいっぱい歩いたから疲れちゃったや」
「ここ、温泉があるらしいよ」
「ほんと?いつ入る?」
「伊豆奈が入りたいって言った時間にあわせたい」
「じゃあ、今入りに行こ!気になるぅ〜」
伊豆奈がそう提案したので、僕は反対せずに大浴場へと向かった。
「じゃあ、入り終わったらここに集合ね!」
「わかった。楽しんできなよ」
「うん!」と元気よく言って伊豆奈は大浴場へと向かった。
それを確認して、僕も男湯へと向かった。
「ふぅ…楽しかった…」
湯船につかり、ため息を吐くようにそう呟いた。
今日見た伊豆奈の笑顔を片っ端から思い浮かべる。どれもこれも楽しそうで。何より、いつもよりも気合の入った私服姿は本当に可愛かった。
服を見せ、「どう、かな?」と照れながらいう彼女は、本当に可愛すぎた。
「明日は確か、海に行くって言ってたな…」
伊豆奈の綺麗な水着姿を想像すると、少し、のぼせてしまったから外の椅子に腰かけ少し休むことにした。
今は、伊豆奈も僕にしか目に入らず、僕もまた伊豆奈にしか目が入らない状態になっている。あと危惧することと言えば、第3者に急に取られることぐらいだろう。
「ま、警戒はさせてるからそんなことはないだろうけどね」
もう一度湯船につかるが、一度のぼせた体はあんまり冷めなくって、5分ほどで僕は風呂から出た。
集合場所に向かったけど、伊豆奈はまだいなかったから僕はそこに座って伊豆奈を待っていた。
「あ、侑斗くんごめん!結構、待った?」
僕はその問いに首を横に振り
「全然。それより、牛乳あっちに売ってたから飲む?」
「飲む!」
僕らは牛乳を買いに行った。
僕はコーヒー牛乳。伊豆奈はフルーツ牛乳をそれぞれ買った。
「侑斗くん!お疲れ様!」
「うん。お疲れ様~」
牛乳瓶をグラスのようにこつんと当てて、ごくごくと一気に飲んだ。
「…ぷはぁ~、幸せ~」
「おいしいね」
「おいし~…」
すっかり心もゆるゆるになった僕らは、ほんわかした気持ちで部屋に戻った。
テレビをなんとなしに付けると、ニュースがやっていた。
「…続いてのニュースです。今日、有名水族館にて、溺死死体が発見されました」
「…あれ、これって…」
「さっきまで、行ってたところ…」
僕らは背筋をぞくっとさせた。
「ゆ、侑斗くん…」
「大丈夫。何があっても伊豆奈を守るから」
「う、うん…」
僕は胸の中に顔をうずめる伊豆奈の頭を撫でて落ち着かせた。
そうやって撫でてる間。僕は顔に笑顔を張り付けていた。
(うまくやってくれてよかった)
と考えながら。
「うわぁ~!美味しそー!」
夜ごはんに運ばれたご飯は、一言でいえばすごいものだった。
小鉢に盛られた料理が5品。大きなのどぐろの塩焼き、海老出汁の味噌汁。そして、活きのいい海老、そして船盛の鯛の刺身がドドンと置かれていた。
「はわわわ…ね、ねえ!早く食べよ!」
「うん。じゃあ、ご飯盛るよ」
と言って、僕はご飯を盛って伊豆奈に渡した。
「じゃ、じゃあ…」
「せーの」
「いただきます!」
「はぁぁ…満腹満足…」
「おいしかった…」
部屋に戻ると、布団が二つ敷かれていた。
僕らは電気を消し、ゆっくりと布団に入った。
「えへへ…楽しかったね、侑斗くん」
「うん。伊豆奈といっぱい遊べてよかった」
僕がそういうと、伊豆奈は「えへへ…」と嬉しそうに笑った。
「…ねえ、私もう一回やりたいことある」
「なに?」
「ぎゅってしながら寝たい」
そう言いながら、伊豆奈は僕にぎゅっとしてきた。
僕は一度正面に向かい合って、伊豆奈のことを自分の胸に抱え込んだ。
「僕も、ぎゅってしたい」
「ふふ…幸せ」
伊豆奈があまりにも可愛くそういうから。僕は思わず伊豆奈にキスをしてしまった。
「…なんか、新婚さんみたいだね」
「…本当に、新婚になれたらな…」
そういうと、伊豆奈はグイっと顔を近づけ
「当たり前。侑斗くんこそ、私の生涯のパートナーになってよね」
「ははは…うん。もちろん。僕は捨てたりなんかしないよ」
「約束だからね」
僕らはもう一度、ぎゅっと抱きしめて、そのまま寝た。
伊豆奈のほうが早く寝たので、僕は可愛い寝顔を眺めてから寝ることが出来た。
その夜。僕の夢はそれはそれは幸せな夢となったのだった。
その幸せを手に入れるために、僕はどんな赤だって手を染めることが出来ると思った。
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