2日目 午前
次の日の早朝。昨日は歩き回って疲れたはずなのに、僕らは早くに起きてしまった。
「んう…おあよ、侑斗くん…」
「うん…ん〜っ、っは!おはよ、伊豆奈」
大きく体を伸ばしながらそういうと、伊豆奈は昨晩のようにぎゅっとしてきた。
「今日は、海に行くからね」
「うん。どうする?散歩しに行く?」
「行きたい、けれど…もうちょっとだけ、こうしてたい」
寝起きの伊豆奈が少し寝ぼけながらそうねだってきたから、僕はそれを断ることをしようともしなかった。
今日の海ではなにをしようか。まずは、波際で水の掛け合いでもしようか。それから、伊豆奈を浮き輪に乗せて泳いだりしてみても楽しいかもしれない。
そんなことを考えていたら、伊豆奈がぎゅっと強く抱きしめてから上目遣いをしてきた。
「何か考え事?」
「うん、まあ。今日はどうやって伊豆奈を楽しませよっかなって思って」
僕がそういうと、伊豆奈が嬉しそうに赤らめながら笑って
「嬉しい」
といった。朝のゆる〜いそんな幸せを、僕はひとまず堪能した。
ダラダラとしてから1時間。僕らはやっと起き上がって、朝風呂に入ろうとなった。
朝の気持ちいい日差しが差し込む海岸沿いの露天風呂は、とてつもなく気持ちよく、今日行く海を見ながら、僕は湯船を堪能した。
風呂から出て、昨日と同じところで待っていた伊豆奈と一緒に部屋に戻り、しばらくして朝食が出来上がったと電話がなり、僕らは広いビュッフェ会場へと向かった。
「いっぱいあるね〜。侑斗くんはなに食べるの?」
「僕はまあ、普通のものを食べよっかな」
僕らは思い思いに皿に食べ物をよそった。
僕は煮物や焼き魚といった普通の和食。
伊豆奈はスクランブルエッグやハムなどの洋食を持ってきた。
2人分のオレンジジュースを持ってきて、僕は席についた。
「ありがとー。じゃあ、手を合わせて」
パンと、僕は手を合わせる。
「「いただきます」」
僕がよそった和食は、すべてやさしい味がして、朝の胃袋にやさしくしみわたっていった。
伊豆奈をふと見ると、小型のロールパンや食パンに具をのせて、おいしそうにほおばっていた。
「伊豆奈、一口交換しよ」
「うん!はい、どーぞ!」
伊豆奈はパンにスクランブルエッグをいっぱいに乗せ、ケチャップをかけて差し出した。僕はそれを遠慮なくかじりつく。
「…うん、おいしい」
「でしょ~。あ、魚一口頂戴」
「どうぞ」
魚を一口つまみ、僕は伊豆奈に差し出した。
「はむっ!ん~!さすが、海の幸はおいしいね~!」
「洋食もおいしかったよ」
「ね〜!もむもむ…」
その後も2人で楽しい会話をしながら朝ごはんを食べた。
「美味しかった〜。この後すぐ出る?」
「伊豆奈のタイミングに合わせるよ」
僕らは部屋に戻りそんな会話を交わした。
「わかった〜。じゃあとりあえず、水着だけ着替えとこ〜」
その話を聞いた時。この旅行の最大の難所を悟った。
「…どうやって、着替えるの?」
「面倒臭いし、このまま着替え…あ」
真っ赤っかになって数分。僕らは脱衣所で水着を着て、その上に服を着ようという話になった。
普通の服の下に水着を着て、僕らは部屋に戻った。
「侑斗くん、私の水着気になるでしょ?」
「そりゃ、まあ…」
そういうと、伊豆奈はおもむろに服を脱ぎ始めた。
「えっちょ!」
「大丈夫。ただの水着だよ?」
スルスルと袖から腕をとり、その水着をあらわにした。
「…どう、かな?」
真っ白いフリルの付いた白のビキニを恥ずかしそうに見せてきた。
「か、可愛いよ…」
「そう?よかったぁ…」
そういって、恥ずかしくなったのかそそくさと薄い上着と麦わら帽子をかぶった。
「もうおしまい?」
「は、恥ずかしい!」
あ~。今日も今日とて、彼女が可愛い。
「海!砂浜!海水浴!潮風が気持ちいー!」
「伊豆奈、はしゃぎすぎ」
海を見て伊豆奈が大きな声で叫んだ。午前9時。僕らはすぐ近くにある海にやってきた。
青く広い海には、すでに人が結構いた。僕らはとりわけ、遅めに来たわけだ。
「いこ!」
「うん」
僕らは砂浜にシートとテントを張った。
「侑斗くん、背中に日焼け止め塗って~」
「せ、背中!?」
伊豆奈はそういうと日焼け止めを手渡して背中を差し出した。
手渡された日焼け止めを見て、僕は喉を鳴らして固唾をのんだ。
「あ…えっと…」
「も~。早くして~」
「えっと…わかった」
僕は日焼け止めを手に取り、僕はその肌に手を伸ばした。
真っ白で、透き通ってて。触ったらもしかしたらその肌は真っ赤に汚れてしまうのかもしれない。そんな錯覚をするほどにその肌は綺麗だった。
「…っん、なんか、マッサージみたいで気持ちいね~」
「っ!も、もう…変なこと言わない」
「は~い」
背中全体に日焼け止めを伸ばしたけど、時々艶めかしい声を何度も放ったから僕は初めて耳のやり場に困った。
背中に塗り終わったら伊豆奈は立ち上がって
「じゃあどっちが海に早くつくか競争!」
といって急に走り出した。僕は一瞬呆気に取られてから慌てて
「ちょ!」
と言って走って追いかけた。
足元をかなり取られる砂浜を僕らは一生懸命走った。
「いえ~い!一番乗り~!」
「はぁ…全く」
可愛いと何千回と繰り返したその言葉を。僕はまた胸の内に吐いた。
「えい!」
といって伊豆奈は水をかけてきた。
「うわっ!冷たい!」
「あはは!ほらほら~!」
伊豆奈は楽しそうに水をパシャパシャとかけた。
「この…えい!」
「きゃぁ!やったな!この~!」
海辺で僕らは、海水の掛け合いをした。
「はぁ…はぁ…浮き輪持ってくるね~」
「うん。わかった」
30分ほど水を掛け合いをやった後、伊豆奈は浮き輪を持ってきた。
「入ろ!」
「うん」
浮き輪を着けて海に入っていく伊豆奈を追いかけて僕は海の中へと入った。
浮き輪の上に乗る伊豆奈の浮き輪をつかみ、バシャバシャと泳いだ。
「は~。気持ちいね~」
「伊豆奈が幸せそうで何よりだよ」
「そう?ありがと」
海上で僕らは他愛ない話をしていた。
「…それにしてもさぁ。私も相当だけど、侑斗くんも相当私のこと好きだよね」
「うん。大好き。法さえなかったら今すぐ伊豆奈と結婚して二人で同棲したいぐらい」
「へへへ…私も」
そうだ。伊豆奈も、僕も。お互いのことが狂うほど好きなのだ。
何をしてても、僕も彼女もお互いのことしか目に入らなくなるんだ。
でも。だとしても。僕は努力を惜しまない。惜しむなんてことしない。だって、そうしないと、僕じゃない人を選ぶかもしれないから。
どんな赤も。どんな鮮血も。僕はそのためならば耐えることが出来る。
「…わたしも海につかる!」
と言って、伊豆奈は浮き輪から飛び降りた。
「…ぷはぁ~!気持ちい~!」
「今度は、どっちが海辺まで早くつくか競争だ!」
「あ、ずるい!」
ずるいも何も、僕は浮き輪を持ちながら言っているのだ。こうしないと逆にアンフェアじゃないか。
とひねくれた考えを持ちながら僕は勝つために一生懸命泳いだ。
「ま、負けた…」
「はあ…わ、私に勝とうなんて、100年早いのよ!なんちゃって…はぁ…」
二人ともがゼイゼイと息を切らして僕らはレジャーシートに腰を掛けた。
二人の息も整ったところで
「ぐぅ~~~」
と、伊豆奈のお腹が鳴った。
「あ、いや違っ!」
「ぷっ」
「あ~!笑ったぁ!」
「ごめんって」といい、真っ赤になってポコポコと肩を叩く伊豆奈をなだめた。
「まあ、もうすぐ12時だし。そろそろお昼食べよっか」
「う、うん…」
「大丈夫。もう笑わないから」
ジト目で見てきたけど、僕は気が付かないふりをして海の家に向かった。
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