旅行
1日目 午前
地上を走る乗り物の中できっと1番早いものに揺られ、僕らは目的地へと向かっていた。
「楽しみだなぁ…あ、UNO!」
「マジで?」
手札には、赤、青、黄色のカードがあり、今場にあるカードは緑の4だった。
緑も4もない僕は山札の中からカードを一枚引いた。
「…パス」
「やった!あがり!」
「勝った勝った〜」と喜ぶ伊豆奈を見て、僕も少し頬を緩ます。ちなみに、今は10勝1敗。少しだけ、手を抜いた。
「次は、〇〇。〇〇。お出口は左側です」
「あ、もうすぐだね」
「じゃあ荷物もとっか」
新幹線からアナウンスが流れ、目的の駅が近づいてきたのを知って、僕らは用意を始めた。
「行こ!」
と元気に言いながら手を差し出してきた。もちろん僕は、笑顔でその手をとって
「うん」
と返した。
「ようこそ、清水旅館へ」
ドアを開けて早々に、中から着物姿の女将さんのような人が深々とお辞儀をしてそういった。
「ご予約されてた、浜宮様ですね?」
「はい!よろしくお願いします」
そういうと、裏の方へと行き、数分後、紙と鍵を持ってやってきた。
「では、こちらのお部屋となっています。この後はどこかにお出かけになられます?」
「あ、はい」
「水族館に行く予定なんですよ〜」
「でしたら、お荷物を持って行きます。どれが必要なものですか?」
僕らはその好意に甘え、荷物を部屋へと持っていってもらうことにして、水族館へと出かけた。
「おー!さっすがおっきい!」
「こらこら。あんまりはしゃぎ過ぎないの」
僕らが向かったのは旅館から1時間ほどのところにある結構有名な大きな水族館だった。
魚やクラゲなどの水生生物はもちろんのこと、カワウソやペリカンなどの動物もいる、結構マルチに楽しめる場所だ。
「ねえ、最初おっきな水槽が見たい!」
「うん。いいよ。じゃあ、その後はカワウソでも見に行きたいな」
「わぁ、カワウソみたい!行こいこ!」
手を繋ぎ、肩を寄せ合い、2人で楽しい会話を交わす。これ以上幸せで、生きててよかったと思う瞬間はないだろう。
この至福が永遠に続くように、僕はまた頑張ることができる。だから、僕はこの時間がたまらなく好きなのだ。
「綺麗だね…」
「そうだね。とっても、鮮やかだ」
水槽の中を見ながら、彼女はそう呟いたから、僕も思わず彼女の表情の鮮やかさを口にしてしまった。
慌てて水槽の方に目を向ける。いつも見ている魚と違く、ここに泳いでいる魚たちは皆、雄大なこの水の中をイキイキと泳いでいた。
「…ねえ、もし私を魚に例えるとしたら、なに?」
伊豆奈は急にそんなことを聞いてきたから、僕は少し考える。
「…イルカ、かな?」
「え〜?なんで?」
「だって、可愛くて、賢くって、何より、人を笑顔にさせるのが得意だから?」
「っ!」
彼女は文字通りボフっと真っ赤になり固まってしまった。
「ふふ…そういう伊豆奈は、俺のこと魚に例えたらなんなの?」
「えっと…ドクターフィッシュ、かな?」
「またかなりマニアックなとこ選んだね」
予想の斜め上すぎる回答に思わず驚いてしまった。
「理由は?」
「えっとね、私の悪い部分を飲み込んでくれるから」
「当たり前だよ。僕が伊豆奈に幻滅する時があったとしたら、多分君が僕を殺した時位ぐらいだよ」
「そんなことしないよ!」
わかってる。僕は、君が僕を殺さないということ。君は僕にしか興味がないって。
伊豆奈はそう言い返してから、頬を軽く染めて、握っていた手をさらに強く握った。だから、僕もまた、少しだけ力強く握った。
それから、僕らは美術館のようにきれいに飾られた魚たちを見て回り、僕がたくさんいる水槽の中に手を突っ込んで「くすぐったいよ~」などと言い合って笑いあったりして午前中を過ごした。
「そろそろお腹すいたね~」
「お昼食べよっか」
時間はちょうど12時。体内時計まで完璧なのかと驚きながらも僕らはお昼を食べに行った。
水族館の中にあるレストランの中に入った。
「わあ。可愛いメニューいっぱいあるね~」
「うん。伊豆奈は何にする?」
う~んと悩みながら、何かを見つけたように顔をパッと明るくした。
「じゃあ、これ!このイルカカレーにする!」
「じゃあ、僕は僕に乗っ取ってこの『ドクターフィッシュの健康サラダ』と、おんなじイルカカレーにしよっかな」
店員を呼び、僕らはそれぞれ注文をした。
「午後はどうする?」
「イルカショー見てから、旅館でゆっくりしよ」
「うん。そうしよっか」
僕らは二人で他愛ない話をしてると、頼んだ商品が運ばれてきた。
「うわぁ!かわいい!!!」
「確かに可愛いね。写真撮る?」
僕は当然。伊豆奈のはしゃぐ姿を見ながらそう提案した。
パシャパシャと写真を撮る伊豆奈に僕は惜しいけど
「ごめん、手洗いに行ってくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
トイレのドアを開けると、そこに友達がいた。
「やあ。言ったことはちゃんとできた?」
「はい。本日は4名。すでに処理済みです」
どうやら、外に出ても僕の彼女はモテモテらしい。
きっと、もうあの車には肉塊が4体分詰まっているのか。
早いな、と感じながら地元ではあの噂が抑止力になっているのかと考えるとちゃんと意味があったんだなと思い、やっぱり努力はちゃんと報われるんだなと思って、少しガッツポーズした。
「じゃあ、引き続き頼むよ」
「…はい」
彼にまた頼みごとをし、僕は伊豆奈の元へと戻って行った。
その後、僕らはあーんさせあったのだけど、伊豆奈のカレーには少し甘みが強く入っていた。
「ふ~おいしかったぁ~」
「もうすぐイルカショーの時間だよ。行く?」
「うん!いこ!」
こっそりと勘定を終わらせておいたから、僕らはそのままイルカショーを見るためにイルカショーのステージへと足を進めた。
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