第6話 村人達と嘘
門番が八ちゃん号の脇に立ち、少し腰を屈め中を覗きこんでくる。おれは視線を避ける様に荷台のあおりにピタッと寄り添う。
「この袋の中身はなんだ?」
「旅の途中で手に入れた山菜です。多少の路銀にでもなればと…。」
ジェフが手拭いを被り直しながら答える。だがまだ少し焦りが残っているのか、ほうかぶりではなくネズミ小僧の様に鼻掛けになっている。自分から賊になってどうする……だがだが、顔の角張りがうまく隠れ怪しさは相殺されている。これがディープラーニングってやつか。
「…こっちのやつは魔獣の素材か?…トゥースボアの牙の様だがやたらでかいな…これはどうした?」
知らん顔しておけば大丈夫だろうと思っていたが突っ込まれた。牙よりもジェフの恰好に突っ込めよ。だが言い訳なんざいくらでも出てくる。
「これも道中で見つけた物です。食料の調達をしようと少し森へ入った時に頭蓋を見付け、牙だけ持ってきました。」
「本当か?……なら亜種が増えている可能性もあるな……まぁいい。ハンターじゃないようだが?南の森に入るとは、見掛けによらず腕は立つようだな。だが村で問題を起こすなよ。補給ならこのまま通りを真っ直ぐ行けば雑貨屋がある、宿をとるなら近くの食堂に行ってみろ。」
門番が怪しみつつ、独り言を交えジェフと問答する。しかし親切にもこんなコンビに雑貨屋の場所を教えてくれた。おれに負けず劣らず心が広い。
「ここは南部開拓村のルーメンだ。もう行っていいぞ。」
今度こそコンプリートだ、村へ入るお許しが出された。まあこんなもんだろう。怪しい二人だが子連れの親子は同情を引きやすい、そこを突いた完璧な作戦だ。タマちゃんはどうしたのかだって?抜かりはない。おれが球状になったタマちゃん達を転がして遊ぶ振りをしていたのだ。子供の玩具と思ったのだろう、特に問われる事はなかった。
言われた通りに道沿いに進んで行く。道は石材で舗装されており、建物は木造や石造りで平屋や二階建てなどしっかりしたものがまばらに建っている。開拓村でこの様だ。想像していた中世時代よりもかなり発達している。
すれ違う村人や、道の脇でなんかやってる人に二度見されながら辺りを見回し進むと、軒先を突き出し野菜や瓶等商品を並べた雑貨屋が現れた。中には50代位のおばちゃんが座っており、本を読んでいる。おれはジェフに 行け と目配せをする。
「こんにちは、こちらで塩など買わせて頂きたいのですが…。」
言葉を掛けるとおばちゃんがこちらに気付き、本をパタンと閉じて立ち上がる。恰幅のいい貫禄があるおばちゃんだ。
「はいはい、こんにちは…って怪しい輩だね。なんの用だい?」
「すみません。不審に思われるのは分かっているのですが昔の傷跡が残っており、あまり人様に見せられる様な顔ではないので…」
「そりゃ悪かったね。だけどこの村じゃそんな細かい事を気にする様な人はいないよ、胸張って顔を上げな。」
ジェフがこちらをちらりと伺う。おれはつぶらな瞳を動かし目で頷く。ジェフが手拭いを外し素顔を露わにすると、粋な事を言っていたおばちゃんも少し驚き眉を上げる。だがその言葉は本当だろう、何事もなかった様に続ける。
「そっちの方が男前だよ。それで塩が欲しいのかい?」
「ええ、ですが旅の途中でお金がないので、出来ればこちらと交換して頂けないかと…」
山菜を入れた袋と牙を取り出して交渉を持ち掛けるジェフ。タマちゃんを転がしながら無邪気を装い、聞き耳を立て経過を見守る。
「買取はやってないんだけどね…小さい坊やもいるようだしね、今回だけ特別だよ。」
おばちゃんが山菜袋だけを受け取り、店内に行きカウンターで広げて検分し始める。しばらくしてそれを終えると、塩らしき物が詰められた瓶3つと大人の拳大程の岩?を持って軒先へと戻ってきた。
「珍しい物も混じってたから3000リルってトコだね。その分とおまけだよ、持っていきな。中身は砂糖と塩と胡椒、これは岩塩ね。坊やにひもじい思いをさせるんじゃないよ。」
「ありがとうございます、助かりました。」
なんと気風のいいおばちゃんだ。いつか恩を返したいものだ。今はプライスレスの笑顔で勘弁して頂こう。
「ありあとう」
「あらまあ、坊やはもうお礼が言えるんだね、えらい子だねぇ、よしよし。あと、その牙はうちじゃ扱えないからこの先にあるギルドの出張所に持って行ってみな。」
やはりあったかなんちゃらギルド。ついに無双の始まりか?だが慎重な性格のおれは浮かれない。家に帰るまでがなんとやら。学校の私室で毒見をやっている者の言葉だ。
おばちゃんの情報を元に出張所へと辿り着いた。おれはジェフに肩車をしてもらい、視界を遮らぬように手を顔と頭にまわす。ポリゴンの継ぎ目を少しでも誤魔化す為だ。
「こんにちはー!」
ジェフが挨拶とともに扉を開く。中を見るが誰もいない…武装したヒャッハーでモヒカンな連中がいるとワクワクしていたが…シーン…とそこは迂闊に屁も出せないような静寂だった。学校の授業を思いだす。
中へ入り、受付と思われる窓口が付いた仕切りに近付くと、向こう側に椅子に座り寝ている男がいた。
(寝ているようですね、どう致しましょうか?)
(ここがギルドで間違いないだろ、まだ日が高いし扉も空いてたんだ、こいつがサボって寝てるだけだろ。起こしてみろよ)
静かな空間と寝ている男がいるので小声で会話する。
「すみません!見てもらいたい物があるのですが!すみません!起きて下さい!」
ジェフが声を上げ男に話しかける。ビクッと体を反応させ起き上がり、こちらに気付いて動き出す。立ち上がった男の身長は大きく、2mはあるだろうか?シャツから出した腕は筋肉で盛り上がっており、頭は毛がなく髭もない。そんな男が窓口越しに喋り出す。
「すまんすまん。普段、客は滅多に来ないんでな、がっはっは。面白れえ顔のお客さんだな、見かけないやつだがなんか用か?」
男が失礼な事を言うが、まあ事実だ。こいつもたいして気にしないだろう。
「初対面の者に対してその様な言葉とは失礼なお方ですね。そちらもT3P40Xに生息するゴスモルの様な顔ではありませんか。」
気にしてた。気持ちは分かるが今は牙をどうにかしてもらうのが先だ。おれはジェフの頭をペシペシと叩く。
「悪い悪い、思ったら口に出ちまう性格でな。ゴスモルが何か分からんがそれでお相子だ。んじゃ改めて、なんか用か?」
「まあいいでしょう。こちらでこれを見てもらおうと思いましてね。旅の道中、森で拾った物です。可能であればお金にならないかと、どうでしょう?」
ゴスモルが何者かはおれも知らないが和解したようだ。男に牙を見せカウンターに置く。
「…こりゃあトゥースボアの…いや、亜種か?でかすぎるな…う~む…近いうちに応援を呼ぶか…」
男がブツブツと独り言をいいながら牙を持ち上げ、傾け、角度を変え確認する。その様子を見ながらボケーと待っていると、牙を置きこちらへ話かけてきた。
「すまんがこれは買い取れねぇ。おめえさん、最初にカードを出さなかったって事はハンターじゃねえんだろ?まぁ登録しててもここじゃこんな大物は買取できないんだがよ。」
「そうですか…多少の旅の足しにでもなればと思ったのですが、仕方ありませんね。」
「まあそう気を落とすな。買い取れはしねえが情報料をやる。森の中で見付けたと言ってたな?村からどのぐらいの距離だ?この牙を持った魔獣を他に見たか?」
そのまましばらく問答が続いた。肩車されたおれが時に囁き、時に頭を叩きジェフを操って、虚実を混ぜて話を合わせた。結果1万リルだと言う金貨?を貰えた。大人一人と子供一人ぐらいなら宿に一泊は出来るらしい。そして流れでここにある資料も見せてもらう事が出来た。
資料を調べて情報を集めていたら日が傾いてきた。日帰りの予定だったが、泊まるお金も手に入れれたので宿へと向かう。
「しかし、魔獣という脅威に関して多少とはいえ嘘を交えたのはよかったのでしょうか?」
「今更何言ってんだよ。どうせ猪と気持ち悪いチビ助共しかいないよ。狼もいたか。あんま気にしてるとポリゴン数が減って更に面白くなるぞ」
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