第7話 群れと夜逃げ
ギルドでの事を気にしてぶつぶつ言ってるジェフの独り言を聞きながら、教えてもらった宿へと辿り着いた。両開きの扉を開け中へ入る。そこは小さな飲食店の様な感じで、丸いテーブルを囲み三人の男が食事をしている。入口で中の様子を窺っていると、エプロンを着けた女性がこちらに気付いて近寄ってくる。
「いらっしゃい、旅人さんみたいですね。食事ですか?お泊りですか?」
ジェフと女将さんのやり取りの後、案内され部屋へとやってきた。多少汚いのは覚悟していたが、想像以上に綺麗なもんだ。
ベッドが一つ、一人用のテーブルとイスが置かれた6畳ぐらいの広さで素泊まり五千リル、ビジネスホテルと考えれば物価も日本と同じ感覚でよさそうだ。
「ふぅ…トラブルもなくうまくいったな。村の人達もいい人ばかりだったが、やはりおれの演技の賜物だろう」
「いやいや、私の交渉術あってこその結果ですがここはウィル様に譲っておきましょう。しかし余所者の私達にも快く接してくれるいい村ですね。いっそこちらに拠点を移しては?」
「それもいいが、爺さんの家や畑をほったらかしにするのもまずいだろう。そしてギルドの資料によるとあそこは領地外の土地らしい…と言うことは税金やらなんやら気にする必要がないと言うことだ」
「なるほど、よく山や森を破壊するウィル様にはあちらの拠点が合っているということですね。」
「うるさいわ!まったく…今日は気疲れしたからもう寝るわ。ベッドはおれが使うから、じゃおやすみ」スヤァ…
翌朝…というにはまだ早く、陽も登らない頃にけたたましい鐘の音で起こされた。
「…んが!?何事だ!?火事か!?地震か?!おい!ジェフ起きろ!」
椅子に座って目を開けたまま寝ているジェフの肩を揺する。…ゥィーン…ピンポポロン♪…変な起動音と共にジェフが目覚める。
「何事ですか、ウィル様…これは何か警報のようですね。私は状況を確認しますのでウィル様は荷物を纏めておいて下さい。」
以外と冷静なジェフがタマちゃん1号を窓から放った後、間を置かず ドンドンドン と扉を叩く音がした。
「お客さーん!避難指示の鐘です!ギルドの出張所へ避難して下さい!」
扉を開けると受付をしてくれた女性が各部屋の戸を叩いて避難を促している。聞き耳を立て様子を窺っていると、どうやら魔獣が迫っているらしい。イベント発生で少しワクワクしているとタマちゃんが戻ってきた。
「ウィル様、どうやら魔獣が群れを成してこちらに向かっているようです。指示に従い避難致しますか?」
「どう対応すんのかよく分からんから一応皆と逃げとくか…ちなみにどんな奴らなんだ?」
「ゴブリンと言う魔獣らしいです。足止めしている者も負傷者が出て撤退中、まもなくこちらに到達すると思われます。」
「げッ?!ゴブリンって…昨日の奴等が関係してたりしないよね…?してなくてもこのまま見てたんじゃ寝覚めが悪い……よし、出るぞ、ジェフ。私にいい考えがある」
避難するフリをして八ちゃん号の元へ向かう。そして急いで改造だ。つっても、あおりに少し穴を開けたぐらいだ。そのまま中へ乗り込み、鐘が鳴り続ける中を武装した者達が走っていく方へ向かう。
非常事態の最中、荷車を押す姿に視線と怒号を集めるが、そこは文字通り鉄面皮のジェフに任せておれは袋を被り、身を隠す。しばらくすると村へ入ってきた門へと辿り着き、そこへ見知った顔の門番がいた。
「おい!昨日の旅人じゃねえか、何やってんだ?!戦えんのか?ガキはどうした?!」
それぞれ配置に就いている戦士達の喧噪の中、昨日の門番がジェフへ詰め寄る。
「両方ともご心配無く。戦えなければ旅なんてやっておられません。ところで村の外で対応している者は居られますか?」
「いいや、斥候もさっき戻ってきて後はここで踏ん張るしかねぇ…ただのゴブリン共ならなんともねえが山から来た奴等だ。しかも数は百を超え上位種もいる…いいのか?無事じゃ済まんと思うぞ?」
ゴブリンが山育ちか都会育ちかは知らんが、昨日の奴等程度なら問題無いだろう。そして村と群れの間に人はいないらしい。コンコンコン と荷車の底を叩きジェフに合図を送る。
「実はこの荷車は魔道具でして、子連れで旅が出来るのもこれのおかげです。これを使って私が先陣を切りましょう。」
「そうは見えんがそうなのか?本来兵でもハンターでもない者を戦線に立たせるわけにはいかんが、少しでも手が欲しい。だが無理はするなよ?ダメだったらすぐに下がれ。」
カタカタと車輪の音を鳴らしながら八ちゃん号が進んで行く…門番達から見えづらくなったところで、おれはモゾモゾと袋をどかす。太陽の頭が少し出て光が差し込むと、広がる畑の向こうに群れが見える。実際に見るとかなり多いな…大丈夫かこれ?
薄暗い中、互いの姿が確認出来る距離になると、おれ達を見たチビ助共が一斉に向かってくる。おれは再び身を隠して、あおりの穴から手を出しジェフに戦闘開始の合図を送る。
「
おれの叫びにジェフが応える。
「
叫びと共に気弾が群れに向かって撒き散らされる。おれが銃で八ちゃんが銃座、ジェフは射手と言ったところだ。タマちゃんズは緊急事態に備え、底に張り付いている。
幾つもの放たれた弾が爆発を起こし、辺り一帯に土と煙の柱を立ち上げる。それに合わせてゴブリンの肉片と悲鳴が飛び交う。近代の戦場さながらのその場所を、ゆっくりと突き進んで行く八ちゃん号。多少撃ち漏らしはあるが、少しなら村の衆がなんとかするだろう。
7割方始末した辺りか、ジェフがボスっぽいのがいると言うので少し気合を入れて撃ったらおならが出た。中に籠って臭い…自分のやつだからまだいいが。
「…よし、粗方やっつけたからこんなもんでいいだろう。このまま拠点へ戻るぞ、乗れ」
「戻って無事と状況を報告した方が宜しいのでは?」
「馬鹿野郎、今回の件で色々聞かれるのは分かっている。面倒臭くなる前に逃げるんだよ。犯罪を犯した訳じゃない、すぐに忘れるさ」
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