侵入者の正体
「何してんだ、てめぇっ!!」
ドカッと物凄い音がして、上に乗っかっていた偽夫が吹っ飛んだ。同時に部屋がパッと明るくなる。眩しさに一瞬目を伏せ、恐る恐る状況を確認すると、ジャックが二人に増えていた……何この急展開。
「おかしな夢……」
「まだ寝惚けてるのか? おいショコラ!」
最高に不機嫌な声で怒鳴られ、え……と蹴り飛ばされた方のジャックを見れば、むくりと起き上がり舌を出しているのは銀髪赤眼の妖艶な美女。
(じゃあ、旦那様……と言うかジャックだと思ってたのは、ショコラだったって事? それにしてはがっちりした抱かれ心地だったけど)
一体どこまでが夢だったのか混乱していると、ジャックとショコラが言い争いを始める。
「寝室には鍵がかかってたはずだろ。どうやって入った!」
「そんなの、ちょっとの隙間があれば意味がないわよぉ。通風孔からに決まってるじゃなぁい?」
「はあ……あのな、アリスは既婚者なんだぞ。事態をややこしくして不利になったらどうするつもりだ」
「そんなにカッカする事ないでしょ? ほんのちょっぴり味見したくらいで、めんどくさいわねぇ」
ショコラに反省の色が見られないのはさておき、ややこしい事態だの不利だの、話が見えてこない。確かに言うのも憚られる事をされそうにはなっていたけれど、その言い方はまるで……
「ショコラって、女ではなかったの?」
「あら、女でもあるわよ。一緒にお風呂に入ったんだから知ってるわよねぇ」
「んん……??」
引っかかる物言いに首を傾げていると、ジャックが大きく溜息を吐いた。
「こいつは夢魔なんだから、決まった性別はねえよ。男と女のどちらにでもなれる」
「……はっ!?」
「こいつとの出会いも、インキュバスに娘を惑わされたって親から依頼を受けたのがきっかけだ。アリスも変な夢を見せられてたんだろ?」
思わずショコラを振り仰げば、ニヤリと笑うとその体が変化していく。筋肉が盛り上がってたくましい感じの男性に……と思えば、次は肉感的な美女に。
インキュバスというのは私も聞いた事がある。宗教的な伝説で、異教徒はインキュバスの子と言われる。悪夢を見せて女性を誘惑するのがインキュバス。その女性版がサキュバスだ。
ショコラはずっと女性らしく振る舞っていたので、てっきりサキュバスだと思い込んでいたのだが。
(眩暈がしてきた……)
「アリスは仲間なんだから、傷付けるような事するなよな」
「あら優しい♪ だけどアリスちゃんの方もまんざらでもなかったみたいよ?」
「そういう風に誘導してるんだろうが! いいから今後はアリスへの悪戯は禁止だ。風呂も男湯を使え、命令だからな!」
「別にいいけどぉ~」
正体がバレたせいか、今は男の姿になっているショコラ。髪と目の色を除けば夢の中と同じ、ジャックを旦那様くらいの年齢まで成長させたような風貌だ。
「男のショコラって、ジャックのお兄さんみたい」
「はぁ……?」
「何だか雰囲気が似ているのよね。それとも参考にしたの?」
色気は物凄い事になっているけれど、顔立ちは似通っているので何となくそう口にしてみた。するとジャックは顔に手を当て、ショコラは口元をにんまりと緩ませ抱き着いてきた。入浴中とは違う固い感触に、思わず緊張してしまう。
「アリスちゃ~ん、話聞いてた? アタシたち夢魔はね、どんな性別の相手でも誘惑できちゃうの。つまりそう見えるって事は、アリスちゃんにとって性的魅力を感じる異性のタイプなのよ」
「……えっ」
「ショコラ! お前もう戻れ!」
「はぁ~い♪」
私が反応する前に、ジャックの怒号に返事をすると、ゆらりと影だけ残して消えてしまい、通風孔に吸い込まれていった。コウモリ以外にも、こうした霧のような形状にも変身できるのだろう……いや、そんな事より。
(私が性的魅力を感じる異性が、ジャックみたいなタイプって……そうなの!? そういう事なの!?)
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