初戦闘②
【アリス様、全員に『強化』をお願いします】
「わ、分かった!」
パイからの指示に深呼吸して自身を落ち着かせると、三人に触れ大地の女神に願う。神聖魔法の本質は『信仰』――恐怖や疑念の心を持っていては魔法の効果が切れてしまう。役に立ちたいと公言した以上、私は彼女たちを裏切る訳にはいかない。
(大丈夫、みんなは絶対に負けない)
攻撃手段を持たない神官は他者を守る一方で、他者から守ってもらわなければならない。だけどそれは、戦えないという事ではないのだ。
【タルトはブラッディードッグを。ショコラはオーガを頼みます】
「了解っ!」
「あいあーい♪」
パイの指示を受けたタルトとショコラはすぐさま散ってそれぞれの敵に向かっていった。残ったパイは私を庇いながら、デストロイヤー一体と対峙する。
【解析中】
相手の出方を窺って動かなくなると、敵の一体に飛びかかったタルトと、棍棒を振り回すオーガを空中で攪乱するショコラが目に入る。無力だったあの頃、絶体絶命になる度に神に祈る事しかできなかったけれど、今は全然意味合いが違う。神職にとっては、祈りこそが戦いの手段だ。
ビッ!
デストロイヤーが細長い光を私に向けて発射してきた。私が弱点だと判断されたようで身が竦んだが、当たる直前にパイが腕を伸ばして弾いた。ガイン! と鈍い音が響く。
「パイ!」
【問題ありません。解析完了】
ボコボコになった鎧をものともせず、パイはナイフを取り出すとデストロイヤーに突撃し、間髪入れずに鎧の隙間にナイフを捻じ込んだ。ガシャガシャ暴れて抵抗していた敵も、しばらくして静かになる。
タルトは金色の狼に変身し、親玉らしき大型の魔犬の喉を食い千切り、残りに向かって恐ろしい唸り声を上げた。上位互換とも言うべき敵から脅されて完全にビビった彼らは散り散りになって逃走した。
ショコラも無事だ。あの華奢な姿からはどうやって怪物を倒せたのか想像もつかない。
「ちょーっといい夢見てもらったわ……永遠に」
「群れなきゃ何もできないなんて、なっさけないよね!」
「みんな、怪我をしているわ! 今、『祝福』を……あ」
怪我をしているので手を伸ばしかけるが、魔物である彼女らにかけても平気なのだろうかと躊躇する。『強化』は通用したものの、『祝福』や『浄化』など邪気を祓う魔法は逆にダメージになってしまうかもしれない。
「大丈夫! ボクたちは御主人の仲間だから、神聖魔法でちゃんと回復できるよ」
「聖水なんかはちょーっぴり刺激的だけどね♪」
どういう理屈かは不明だが、彼女たちの方から怪我を見せてくれたので、神聖魔法『祝福』で治癒を行う。パイは強化されたおかげで無傷だったものの、鎧も手甲部分が壊れていた。
【アリス様はレベルが15まで上がりましたので、『修復』が使えます】
「ええぇ……この場から全然動いてないのに、一気にレベルアップしちゃったのね」
苦笑いしたものの、無事に初戦を切り抜ける事ができた安堵と高揚感で、私はホッと息を吐いた。
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