初戦闘①

 魔法のドアを守る私たちの前に現れたのは、角が生えた怪物と数匹の黒い野犬、そして気配を感じなかったがずんぐりむっくりな鎧騎士だった。


【オーガ一体、ブラッディードッグ四体、デストロイヤー一体。こちらを見逃す気はないようです】

「上等だよ、まとめてぶっ飛ばしてあげる!」

「はあ、美しいって罪ねぇ。ご期待に応えてサービスしなきゃ」

「あ、あの……私、どうすれば」


 後ろから声をかければ、三人同時に振り返られる。ジャックからは前に出るなと言われているし、当然そうするつもりではあるけれど、戦闘後の回復要員として以外にも何か助けになりたかった。具体的な案は出てこないけれど。


「一応パーティーメンバーなら、ボーッと突っ立ってるだけでも少しは経験値が入るんだけど」

「足手纏いにはなりたくないんです。ドアを守れと言われたのなら、もっともっと強くならなきゃ! 教えてほしいんです、お役に立てる方法を!」


 こういう時、ローリー様ならじっとしてなどいられず、考えなしに突っ込んでいってしまうだろうが、さすがにそこまで命知らずじゃない。ただ、ジャックたちに頼りっぱなしの現状を早く打開したかったのだ。我儘に付き合ってもらっている自覚があるから、なおの事。


「と言っても、アリスちゃんのレベルじゃ相手に効果のある魔法なんて――」

「危ない!」


 話している間に、ブラッディードッグの一匹が飛びかかってきた。咄嗟に両手を上に掲げ、イメージする。ショコラさんとの間に透明な壁を張るように……


 バチィッ!


「ギャンッ!!」


 牙が届く瞬間、見えない何かに弾かれるように魔物は地面に転がっていた。自分でも何をしたのか、まだ把握できていない。


「今のは……」

【神聖魔法『結界』です。魔性の者の侵入を防ぐ効果があり、レベルが上がるごとに範囲を広げる事が可能です。ただし現在のレベルでは持続時間は短いです】


 いつの間にか、新しい魔法が使えるようになっていたらしい。系統が違うので、旦那様が魔の森全体を覆うために張った結界とは別物なのだろう。こちらは戦闘中に魔物からの攻撃を防御できる盾といったところか。


「うが~~っ」

「ひえぇっ!」


 オーガが棍棒でガンガン結界を叩いてくる。初めての経験でいつ壊れるのかも分からないし、恐怖で思わず目を背けた。


「ちゃんと見ててアリス! ボクたちがやっつけてあげるから」

「え……」


 結界が消えた瞬間、タルトが飛び込んできて棍棒を受け止めた。ショコラも背中から生やしたコウモリの羽を大きく広げ、パイが私を背後に匿う。


 彼女たちの、戦いが始まった。


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