見張り中

 朝食後、私たち女性陣は亜空間に一人ジャックを残してダンジョンに戻ってきた。リフォームしている間、魔物にこの辺一帯を壊されないように見張っておかなくてはいけない。壁に刺さったドアノブから室内に入れるのはジャックだけなのだから。


「……とは聞いたんだけど、どういう仕組みなのかしらね、あの亜空間屋敷」

【魔道具全般に言える事ですが、『魔石』という特殊な鉱物は魔術師ではなくとも少量の魔力を流すだけでエネルギーを生み出すので、それを動力源として利用しています】


 魔道具についての疑問に淡々と答えてくれるパイ。少量と言ってもそれは単純な造りのものであって、亜空間を住居にするとなるとその分かかる魔力も膨大になるらしい。まる一日というのはそういう事だ。


「そもそも魔術師以外にも魔力ってあるの?」

「アリスちゃんてば、自分も神聖魔法を使うくせに何も知らないのねぇ~。魔力は別に魔物や魔術師の専売特許ってワケじゃないのよ? 魂が生み出す生命の力、中でも魔法を使える分が『魔力』と呼ばれているけれど、基本的には誰でも持ってるものなの」


 ショコラにクスクスと嘲笑されて、ムッとなる。私が修道院で身に付いた神聖魔法は、祈りの力で発動する。だから魔力を消費して唱える通常魔法とは根本から異なるのだ。そう言えばジョーカーからも、魔法体系が違うと言われていた。


「待って、それじゃ魔法って命を削ってるって事!?」

「限界値を超えなきゃ平気よぉ。体にストッパーが働いて、一日分の魔力が尽きれば魔法は使えなくなるし……」


 私は急に心配になってきた。リフォームには相当の魔力量を消費すると聞いていたからだ。思えば地下七十階までダンジョン攻略を進めてきたジャックにとって、寝起きする場所など最低限でよかったはず。我儘を言ったばかりに余計な手間を取らせてしまった事に罪悪感が湧いてくる。


「どうしよう、こんな時にジャックが倒れてしまったら」

「大丈夫大丈夫、御主人はタフだからおいしいもの食べてぐっすり寝てれば回復するよっ!」


 タルトがポジティブに慰めてくれるが、いくら誰でも使えるからと言って、魔術師でもない人が無理に魔法を使って無事でいられるのだろうか。こうなれば、少しでもドアの向こうで異変を感じれば、途中だろうが中止させた方がいいかもしれない。


 そう考えていた私だけれど、ズズン、と地響きがして地下七十階に生息するモンスターを目にした瞬間、他人の心配をしている場合ではないと思い知ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る