新生パーティー結成
【アリス様。戦闘用の衣装をご用意いたしましたので、お受け取りください】
一旦席を外したと思ったら戻ってきたパイさんは、袋に入った私の装備を持ってきてくれた。職業・神官がダンジョンでも着れる服。正直、式典や婚礼で使用する聖衣はどう考えても戦闘用ではなかった。邪気を祓う効果はあるんだけども。(濃い瘴気の中でも平気だったのがそれだ)
着替え中はジャックさんに退室してもらい、装備についてのレクチャーを受ける。
【冒険者ギルドで最もよく見かける神官の僧衣をアレンジしました。アリス様にとっては異教ですが、魔物祓いを財源としている宗教であり、発注先も物理・魔法共に耐久値の高い装備作りを売りにしております】
「本当だ、どこにもエンブレムがついてない。修道服よりずっと動きやすいし」
【さらに高濃度の瘴気に耐えられる魔導ローブを羽織っていただきます。こちらはバロメッツという羊型植物の毛織物で、倉庫から見つけました】
「それ、勝手に持ってきてよかったんですか……?」
【靴は冒険者御用達の丈夫なブーツになります。マスターの使い古しでしたが、アリス様のサイズに合わせて仕立て直しました】
「そんな事までできるんですか、貴女」
これをたった一晩でできるんだから恐れ入る。私は装備一式を身に着けると、ジャックさんに入ってきてもらった。
「似合ってるじゃないか」
「そ、そうですか? えへへ……」
どちらかと言えば神官と言うより魔術師寄りになったと思うのだが、ダンジョン攻略で細かいデザインにケチつけている余裕はない。何なら可愛いし。
「頭が寂しいな……これ被っとけ」
そう言うとジャックさんは、何かを頭に載せた。視界の上から物凄く見覚えのあるヴェールが下りてくる。
「こんなのつけてたって、ただバカみたいなだけじゃないですか!」
「バカみたいって分かっててつけてたのか? でもまあ、旦那もそれ見れば一発であんたが花嫁だって分かるだろうよ」
そうかしら……まさか放置していた花嫁がダンジョンまで追いかけてくるなんて、言われなきゃ絶対気付けないでしょ。もちろん、その一言こそが私がここにいる目的なんだけどね。
「ついでだ、指輪もしとけ。ちゃんと装備しとかないと効果はないからな」
私は落とさないよう二つの指輪をチェーンに通して首からかけていたのだけど、もしかして今まで生死不明になってたのかしら……ダイナが半狂乱になっているのが目に浮かび、慌てて私のサイズ分の指輪を嵌めると、鮮やかな色で光り出した。もう一つの指輪の石と同じくらい……旦那様も無事みたいね。
「ジャックさん、ご忠告感謝します。おかげで助かりました」
「水臭いから、もっとフランクな喋り方でいいよ。仲間なんだし、呼び捨ての方が気楽だしな」
「え、そ……それなら。よろしく、ジャック」
タルトさんたちが御主人とかマスターとか呼んでるのに、私だけ呼び捨てでいいのかしら……と思いつつも実践してみたら、思いの外照れ臭かった。彼女たちも呼び捨てでいいと言われたので、言われた通りに名前を呼んでいく。
改めて仲間入りを果たした私に、ジャックさ……ジャックはさっそく指示を出す。
「俺はこの亜空間の中で、住居のリフォームをしなきゃならんからな。まずは今日一日、こいつらとドアの外で敵が来ないか見張っててほしいんだ。敵が来たら否応なしに戦闘になるが、絶対に前に出るなよ。神官は後方支援と戦闘後の治癒がメインだ」
「せ、戦闘……」
昨日の今日でいきなり敵との戦闘を命じられてしまった。まだレベル7なのに、ジャックなしで地下七十階の魔物と!? 無事、足を引っ張れずに乗り切れるのだろうか。
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