亜空間の露天風呂
魔法で作られた住居のお風呂は、外にあった。亜空間だから正確ではないけれど、何と言うか……建物から裸で出るのは落ち着かない。それでも満天の星空を眺めながら、岩に囲まれた広い湯船にゆったり浸かるのは、なかなか風情があった。
「ふぃ~、極楽極楽」
「タルトさん、『極楽』とは?」
「あ、これね。御主人がお湯に浸かってる時の口癖だからうつっちゃった」
(えぇっ、一緒に入ってるの!?)
【『極楽』とは東方の国の宗教観において天国に相当する場所の事です。マスターは東方で生まれ育ちましたからその影響と推測します】
「そ、そうなの。へぇ~……」
(パイさん、結構熱い湯加減なのに顔色一つ変わらないの怖いんだけど)
「それよりアリスちゃん、洗いっこしない? 髪も体もさっと洗っただけですぐ湯船に浸かっちゃったでしょぉ~? もっと隅々までキレイにしなきゃ……むふ」
「え、遠慮しておきます!」
(ショコラさん、手つきが怪しいんだもの……ローリー様とは違う意味で苦手だわ)
外風呂にも圧倒されたけれど、それ以上に私を困惑させたのは、入浴するために裸になった彼女たち三人だった。タルトさんは髪と同じくケモミミと尻尾も見事は金色だったけれど、他は取り立てて人間離れしたところはない。ショコラさんの衣装はコウモリに変身させて身に纏ったもののようで、合図と共に飛び立っていった後は全裸になっていた。パイさんは鎧を全て脱ぐと肌着一枚。
全員が血のように真っ赤な瞳をしているのが共通している……あとやけにスタイルがいい事も。ショコラさんなんてスレンダーと言うか、絶壁と言ってもよかったのに、何故脱ぐと急に艶めかしくなるのか。
「あらぁ、アリスちゃんだってお肌スベスベだし、食べちゃいたいくらい可愛いわよぉ?」
「心を読まないでくださ……ひゃあっ! どこ触ってるんですか!」
「ずるーい、ボクも裸の付き合いにまぜてー!!」
【……】
美少女たちにもみくちゃにされ、ぐったりしてしまった私をよそに、彼女らは楽しそうだ。
「ぜえ、ぜえ……」
【これ以上湯に浸かり続けると、逆上せる危険性があります】
「あちゃー、御主人に怒られちゃうね。てへっ」
「ちょっとはしゃぎ過ぎたかしらぁ」
謝られながらも岩の上に座らされ、ひんやりとした風にようやく落ち着きを取り戻しながら、私は引っかかっていた疑問を投げかける。
「あの、貴女たちはジャックさんを『御主人様』と呼んでいますが、従者なのですか?」
「そうとも言えるけど、ねぇ?」
「御主人は仲間だって言ってくれたよ?」
お互いに顔を見合わせていた彼女らは、やがて身の上を話してくれる気になったようだ。
【我々とマスターは最初、敵対関係にあったのです。本来魔性の者として生を受けていますから】
「魔性……えっ、つまり魔物って事!?」
「そそ、ボクは人狼。ショコラは夢魔で
「アタシたち、御主人様に屈服させられちゃって、身も心も捧げずにはいられない体にされちゃったの……うふっ♪」
こんなにも魅力的な女性が三人とも、魔物!?
それだけでも衝撃的だったが、そんな彼女たちを従えているジャックさんはさらに得体が知れなくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます