男の浪漫

 入浴後、私は用意された服を着て部屋へと通された。カップの中身を飲みかけていたジャックさんは、私の姿を見て思いっきり咽ていた……


「ゲホッ! お前ら、なんてもん着せてんだ……」

「だって着せられるのが、御主人のパジャマしかなかったんだもーん。いいじゃん、ボクだってお下がりなんだし」

「うふふっ、彼シャツは男の浪漫よねぇ? クスクス」

【他の衣類は洗濯を終え、『背景:晴天』にて乾燥中でしたが途中で背景を変更したため、魔導乾燥機に切り替えております】


 呆気に取られる視線に耐えられず、モジモジとパジャマの裾を引っ張る。男物なので当然だぼだぼで、特にズボンはどうしてもずり落ちてしまうので、いっそ上だけにしようと取り上げられてしまった。


(は、恥ずかしい……ローリー様に足首の見えるドレスを着せられた時でさえ嫌だったのに、こんな……殿方の前で膝まで剥き出しだなんて!! し、しかも……)


「しかもアリスちゃん、下着はつけないなんて言うんだもの。サービス満点よねぇ?」

「!!」


 裾を摘まみ上げようとするショコラさんに必死で抵抗しながら、私は真っ赤になって首を横にぶんぶん振る。人を痴女みたいに言わないでほしい、ジャックさんも目を丸くして固まってるから!


「だってショコラさんのは、どれも前衛的過ぎるじゃないですか! タルトさんも穿かないって言うし、パイさんのも構造が謎で……そもそも他人の下着を借りるのは抵抗があるんです!!」


 お世話になっておいて何だけど、そこは譲れない。ぽかんとしていたジャックさんだったが、赤面しつつも気を取り直してゴホンと咳払いした。美少女モンスターを侍らせているハーレム冒険者でも、さすがに照れ臭い話題だったようで、私もはしたない事を大声で主張してしまった事に居たたまれなくなった。


πパイ、ショコラの持ってるやつをもっとシンプルなデザインにして作っておいてくれ。ついでに服も、アリスさんの要望を聞いてな」

【承知いたしました】


 パイさんが下がると、ショコラさんはポットからカップにお湯を注いで、いい香りの黒い飲み物をテーブルに置く。タルトさんは私のために反対側の椅子を用意してくれた。


「それじゃ、アリスさんとは今後の事について相談しておこうか。あんたもできれば地上に戻りたいだろうが、ここまで来たらすぐには無理だし、この周辺だと冒険者は俺たちだけだから、命が惜しいなら行動を共にするしかない。

一時的とは言え上手くやっていくためにも話し合いは必要だ……そういうの好きみたいだしな?」


 最後の一言は皮肉めいていて、旦那様に会うために危険を冒した事を責められている気がしたが、恩人相手に無意味な反論をする気はない。私は自分の手をぎゅっと握りしめながらも頷いた。


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