魔法の部屋
私がいるせいか、魔物の気配のない方を選び進んでいたジャックさんは、ある場所でぴたりと足を止めると「この辺でいいか」と言って肘くらいの高さの岩壁に杭で小さな穴を開けだした。
「何をされているんですか?」
「んー? あんた、ずっとそのまんまでいる訳にはいかないだろ? 風呂にでも入りたいんじゃないかと思って」
私は自分の身なりを見回す。確かにスライムの海に突っ込んだままだったのでドロドロのベトベトだ。気持ち悪いのでお風呂は大賛成だけど、それと横に穴を開ける事と何の関係が……まさか、そこからお湯が湧き出すとか?
「これでよし」
満足げに頷くと、ジャックさんは何かを取り出して、穴にガチャガチャと嵌め込んだ。何か……ドアノブに見えるんだけど?
ギイィ……
「え、えぇっ??」
ノブを回し、奥に向かって壁を押すと――ドアのように長方形に開いたものだから、顎が外れそうになった……いやいやいや、何で岩壁に奥行きがあるのよ!? しかもダンジョンの洞窟じゃなくて、普通に建物内の廊下に見えるんだけど!?
「さ、入って」
「ほらほら、遠慮しないでぇ♪」
「ちょ……っ」
当たり前のように促されるも躊躇していたが、タルトさんとショコラさんに挟まれるようにして中に連れ込まれてしまう。最後にパイさんがドアを閉め、ガチャリと施錠した……どうやって?
「三人とも、風呂場に案内してやってくれ。ついでにお前らも入浴していいから」
「らじゃー♪」
「まかされよう!」
【了解】
訳が分からないまま、私はタルトさんに引っ張られながら廊下を進んでいった。服についたスライムがボタボタ滴り落ちる。
「あ……汚れちゃいます」
「平気平気、後で御主人が掃除するから!」
貴女たちじゃないんだ……と心中でツッコむ。さっきから彼女たちはジャックさんを「御主人様」と呼んでいるけれど、ダイナのような使用人ではないのだろうか。
謎の空間は洞窟内にも関わらず、妙に明るかった。ランプは見当たらなかったが光源は何なんだろうか。建物内だけでなく、窓の外もカラッと晴れた青空が広がり――
「って、ここ地下七十階!」
「どしたの、アリス?」
思わす窓にへばりついた私の様子を、タルトさんが不思議そうに眺めている。礼儀知らずでも耳と尻尾があるだけで許してしまいそうになるのは、おとぎ話でしか知らない亜人のような外見のためか。
私に倣って窓の外を見遣ったショコラさんは、パニックを起こす私にクスッと笑う。
「あらぁ、アリスちゃんは魔法を見るのは初めて?」
「魔法!? 魔法なんですかこれ? 一応神官なので神聖魔法は少々……通常魔法も最近見ました。収納魔法でしたっけ? マジックバッグに利用される……」
ジョーカーに教えてもらった原理を思い出してみる。確か、亜空間とかいう場所に物を入れておくんだったっけ。
「そおよぉ! ここも亜空間の中に人が住める場所を用意したものなの。背景は作り物だから、気に入らなければ変更可能よ。ほら!」
ショコラさんがパチンと指を鳴らせば、外が急に暗くなった。
(と言う事は、さっき岩壁に取り付けていたドアノブが魔道具って事なのね。魔法は奥が深いわ)
ほぁ~……と感嘆の息を漏らす私に、三人は誇らしげに顔を見合わせた。
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