初めてのクエスト⑥

 ジョーカーの答えに一応納得した私は、ギルド職員から借りた薬草事典と摘んだ草を見比べながら、籠の中に放り込んでいく。後で鑑定するので、初心者はとりあえず籠いっぱい入れてきていいとは言われたけれど、事典の内容をしっかり覚えていれば後々役に立ちそうなのだ。


(とは言え、他の雑草と何が違うのか、ちんぷんかんぷんだわ)


「アリス嬢、『祝福』は使用できるでげすか?」

「それくらいなら、もちろん……えっ、薬草に!?」

「事典に載っているのはポーションに使う段階のものだから、ある程度成長させた方が分かりやすいのでげすよ」


 神聖魔法『祝福』は通常、傷や体調を回復させるという認識だったが、言われた通り、群生地に手をかざして祈りを込めた。


(大地の女神ディアナよ、我に力を……)


 ポッと手先が温かくなり、辺り一帯が一瞬キラキラと輝いた。途端、ぶわりと大量の薬草が発生した。


「び、びっくりした……こんな使い方もできるのね」

「さっそくクエスト完了でげすね。レベルも少し上がってるはずでげすが、すぐに報告はしない方がいいでげすか?」

「うーん、そうね……私のレベルに見合ったクエストもそう都合よく貼り出されないだろうし」


 貴族が娯楽感覚で仕事を奪ってしまうよりは、生活に困った冒険者や若者の小遣い稼ぎは残しておいた方がいいとローリー様も言っていた。何故こんな話題が出たのかと言えば、これも彼女の破滅後の進路候補だったからだ。仮にも王太子の婚約者が何を考えていたんだか……


「だったら、あちきらのパーティーに入ればいいでげすよ。一階は魔物も出ないし、二、三階くらいならアリス嬢のレベルにも見合うでげす」

「ええっ、ダンジョンに!?」


 そりゃあグラディウスさんたちばかりに任せてしまうよりは、直接聞き込みを行った方がいいかもしれない。だけどいくら魔物がいなくてもダンジョンの探索は初めてなのだ。いきなりそう言われて躊躇してしまう。


「実はそろそろあちきも控えだけじゃなくて、自分の足でダンジョンを攻略したいところだったんでげす。アリス嬢の護衛という名目なら都合がいいでげす」

「でも、ダイナが何て言うか……」

「口は出してくるだろうけど、一介のメイドが侯爵夫人に逆らう事はできないでげすよ」


 ん? 私、侯爵夫人なんて言ったっけ?


「バレてたの……」

「さっきの門番との会話を聞いてしまったでげすよ。まあグラディウスさんたちはまだ知らないから安心していいでげす……それよりまだクエストを終わらせなくていいなら、薬草の鮮度を保たなくては」


 そう言うとジョーカーは摘み終わった籠の中にある薬草に触れると、ふっと中身が消えてしまった。


「!!?」


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