初めてのクエスト⑤

 食後に柵の前まで戻ってきた私たちは、午後の予定を決める。


「今日、僕たちはダンジョンに深入りはせずに情報収集するよ。冒険者にとって地下一階はそれが目的だから、留まる者も多いんだ」

「ダンジョン前にも薬草の群生地はありますから、アリス嬢はジョーカーとそこにいれば合流しやすいですよ」


 グラディウスさんたちは、私の旦那様探しに全面協力してくれるようだ。申し訳ないけれど、非常にありがたい。


「アリス様、日が暮れたらすぐに帰ってきてくださいね」

「ダイナったら、子供じゃないんだから……」

「いくら旦那様や執事長がお許しになっても、奥様が他の異性と魔の森で夜を越すなんてとんでもない事です!」


 ついついローリー様に付き合わされていた時の調子で返していたら、怖い顔で念を押された……そう言えば昔はこうして無茶をするローリー様を私が窘めていたっけ。嫌だわ、いつの間にか彼女の無茶な性格がうつっていたみたい。これって私がダイナを振り回してる事になるのよね。


「心配かけてごめんなさいね。でもこの指輪があるから大丈夫。命の危機に陥る事はないわ」

「危険なのはそれだけじゃないんですが……はあ、ジョーカーさん。アリス様の事、くれぐれもよろしくお願いします」



 そんな訳で、任されたジョーカーと共に現在ダンジョン前まで来ている。柵の外はカラッと晴れていたのに、この辺りはどんよりとしていて不安な気持ちになってくる。恐らく、瘴気だけのせいではない。


「さあ、グラディウスの旦那が戻ってくるまで薬草を摘むでげすよ!」


 はりきって手伝ってくれるのはいいけど、さっきから異様なまでの存在感を放ってくるこの道化師。食事中も静かにはしていたんだけれど、チラチラ気になって話に集中するのが大変だった。


「あの、ジョーカーさん……」

「水臭いでげすよ、気軽にジョーカーと呼んでほしいでげす」

「はあ……ジョーカーは、何故グラディウスさんのパーティーに? 控えと言われましたけど、道化師がダンジョン攻略で役に立つ事ってあるんでしょうか?」


 失礼かと思ったが、気になっていた事を聞いてみる。グラディウスさん一行は大人数ではあるが効率を重視している。酔狂で役立たずを受け入れているとは思えない。


「ないでげすね。あちきにできる事は、せいぜい荷物持ち。臆病だから殺し合いには向いてないのでげす。

だけどそんな殺伐としたダンジョン内でこそ、笑いで場の空気を和ませるあちきが必要だと思うでげすよ」


 それは、控えにされる訳だわ……とは言え荷物持ちも大事な役目。アイテムを大量に消費してダンジョンに潜る時などは重宝するのだろう。


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