初めてのクエスト④
食堂で昼食を取りながら、グラディウスさんはパーティー結成の経緯やダンジョン攻略の状況などを説明してくれた。(私たちはお弁当を持ってきていたので紅茶だけ頼んだ)
「魔王復活の噂が立ち始めたのが半年前。それに関しては動きもなく、無事封印されたと思われるが、直後にダンジョンが形成された……冒険者ギルドが即座に動いて世界中から冒険者たちがやってくるようになった」
「そこまでは私も聞いています」
「僕がこの国に来たのもその頃でね……他国じゃ王家からの依頼も受けていたから勇者なんて持て囃されたりもしてたんだ」
勇者――魔王が出現した際には必ず現れるという、伝説の英雄か。おとぎ話では定番だけど名乗ってる人は初めて見た。
「魔王が復活する前から勇者と言われていたんですか?」
「ハハハ、手厳しいな。まあその国の政治的思惑によるものだったんだけどね。今回もその一環って訳さ。ダンジョン攻略は君たちの国だけの問題ではなく、世界中が注目している」
思っていたよりも大事だったらしい。魔王って時点でそうなんだけど。
「敵の正体も強さも未知数な以上、無暗に突っ込んでいっては犬死にだ。我々は冒険者ギルドで仲間を集い、大人数のパーティーを結成した。全員ではなく交代制にしたのは、全滅を防ぐのと効率化のためだ。あまり数が多くても統率が取れなきゃ意味がない」
「冒険者ってのは所詮、ならず者の集まりだからな」
クローバさんもうなずきながら同意している。
「それで、三ヶ月前くらいだったかな……王都から兵士たちが派遣されてきて、魔の森をぐるっと柵で囲い管理し始めた。実際はもっと前から動いていたようだが、どういった形で支援するべきか模索していたんだろうな」
「ただでさえ、魔王復活の噂で国民が不安になっていましたからね」
最終的には、冒険者ギルドへの協力がメインになったって訳ね。旦那様が自らダンジョンへ乗り込んでいったのもその時期だけど……
「それでアリス嬢は、その旦那の情報を探しに冒険者ギルドに登録したんだっけ?」
「ええ、ろくに事情も説明せず花嫁を放置してダンジョンへ行ってしまった旦那様に一言言いたくて」
そうだったんですか!? と目を丸くするダイナに肩を竦めてみせる。実際は一言じゃ済まないし、目的はそれだけでもないんだけど。
ある程度身の上は伏せて簡単に説明したところ、女性陣が憤った。
「女に恥をかかせて、最低だわそいつ! 一発殴ってやればいいのよ」
「離婚をお勧めしたいところですが、誓約を交わした以上すぐにとはいきませんね」
「あはは……まあ、どうするかはとりあえず会ってからという事で」
旦那様より前にダンジョン攻略を開始した彼らに、旦那様らしき人は見なかったかを訊ねてみる。
「職業は……たぶん魔術師、だと思います。金髪の金眼で、背がすらっと高くて色白です」
「へーっ、聞いた限りでは相当イケメンみたいね! 金眼は魔力が相当高い証だし」
「いえ残念ながらと言うか、残念と言うか……」
顔のパーツの特徴を単独で説明すると、美形のように聞こえるのかもしれない。でも初めて目にした肖像画の旦那様は、思わず奇声を上げてしまうほど不気味だった。画家が悪意でわざとそう描いたのか、あれがありのままなのかは定かではない。何度も見ている内に慣れるかもしれないし……
「イケメンであれ不細工であれ、珍しい外見のやつを見かけて忘れるとは思えないな……少なくとも、僕らはまだ会った事はないと思う」
「そうですか……」
いきなり居場所が分かるなんて期待はしていなかった。まずは最初のクエストをクリアするところから一歩ずつ進めていくしかない。
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