初めてのクエスト⑦

 一瞬の事で自分の目が信じられず、思わず目を擦ったり半分ほどになった薬草を凝視していると、ジョーカーはニヤリとして片手を上げ、手袋をくいっと引っ張る。

 すると、何もない空間から同じ量の薬草がバラバラと落ちてきた。


「え、えっ!? 手品??」

「収納魔法でげすよ。通常は鞄などを亜空間と繋いだものが『マジックバッグ』なんて呼ばれてるでげす。あちきは手袋を媒体にしてますが」


 魔法!? そのワードに私は即座に反応した。


「ジョーカーって魔術師だったの!?」

「いや、だからあちきは遊び人……ああもう、聞け!!」


 食い気味に詰め寄ったものだから、ジョーカーの道化の仮面がはがれ落ちる。おどけた芝居口調でなくなると、割と『イケボ(ローリー様曰く「イケてるヴォイス」の略)』なのね。


「いいか? 世界には三種類の魔法体系がある。通常魔法、神聖魔法、精霊魔法だ。その中で通常魔法を使えるのが『魔術師』だが、魔道具を介せば誰でも通常魔法を使いこなせる。魔法をアイテム化できるという点でもあとの二つにはない特徴だが、要するに魔道具を持っているからと言って魔術師とは限らないって事」

「そうなの……確かに道具に頼らなくても自分でできてしまうものね」

「まあ強力な魔法は消費する魔力も莫大だからな。レベルの低い魔術師なら節約のために使っててもおかしくはないが」


 魔術師じゃない、と言いつつ随分詳しい。大体、遊び人という職業自体が謎だ。ダンジョン攻略に何の役に立つのかと思っていたけど、魔道具を使いこなしているのなら荷物持ち以外でも重宝されそうなのに。


「通常魔法ってそんなにすごいのね……私の『祝福』は神聖魔法よね? しかもレベルが低いとなると足を引っ張っちゃうんじゃ……」

「とんでもない! 神聖魔法には神聖魔法の利点がある。特に祈りによって発動するから魔力切れの心配がないのが魅力だな。それにこの地域はディアナ神の管轄だから、信仰する神官の魔法とは相性がいいんだ。

さっきの薬草を活性化させて増やすのだって、教会や修道院の財源にしてはどうかってローリーが……」


 神聖魔法が通常魔法に劣っているのではないかと落ち込む私をフォローしようと、ジョーカーはますます饒舌になっていたが、突然言葉を打ち切ってゴホンと咳払いした。


(ん? 今、聞き捨てならない名前が出てきたような……『ローリー』って、あのローリー様の事? まさか、公爵令嬢を軽々しく呼び捨てなんて……

待って、遊び人なんて怪し過ぎる職業と風貌で誤魔化してるけど、魔法に詳しくてレアな魔道具を持っていてローリー様と並べるほどの立場と言えば……)


 一度深まった疑惑から抜け出せなくなり、ぐるぐると考え込んでしまう。そんな私を呆れたように見ていたジョーカーが思いっきりパン!と手を叩く音で、ハッと我に返った。


「何やら勘違いしているようなので先に言っておくでげすが、あちきが実はアリス嬢の旦那様だった……なんてオチはないでげすよ」


 心を読まれてる!?

 やっぱりこの男、魔術師なのでは……


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