冒険者ギルド②
「冒険者には訳ありな人たちが多いとおっしゃいましたよね。では、登録だけなら私もできるのですか?」
「はい、可能です」
「奥様!? 何を……」
声を上げかけたダイナを黙らせると、私は登録用紙を持ってきてもらえるように頼んだ。他に妙な道具も一緒についてきたが。
「これは鑑定用の魔道具です。登録するお客様のステータスを測り記録する事ができます」
「魔道具……って何ですか?」
名前からして魔術師が持っているアイテムのようだが。
「この国ではそれほど馴染みのないものかもしれませんが、魔術師でなくとも魔法を使えるようにするための道具だと思ってください」
「えっ、むしろ魔法が使えない人のための!?」
何とも便利な道具があったものだと溜息を吐くと、責任者さんはクスッと笑って私の手を取り、魔道具をあてた。これで鑑定しているらしく、しばらくしてピーッと音が鳴った。
「アリシア=ワンダー=メイズ様、年齢十七歳、メイズ侯爵夫人、神官レベル5、使用できる魔法は……」
次々に用紙に書き込まれていく個人情報に息を飲む。確かにこれじゃ偽名を名乗ったところで意味がないわ。ただギルド職員以外に対して通り名は必要よね。
「名前は『アリス』にして。家族に呼ばれていた愛称なの」
「かしこまりました、アリス様。ではこれで登録が完了しましたので、受付前のボードに貼られたクエストの依頼を受ける事ができます」
目的通り登録ができたので、責任者さんにお礼を言い、私は冒険者ギルドを後にした。待たせておいた馬車に乗り込み侯爵邸に向かう道中、ダイナは怖い顔して詰め寄ってくる。
「一体何をお考えなのですか。侯爵夫人の貴女様が冒険者など」
「旦那様だって冒険者としてダンジョンに行っているのだから、妻が同じ事をしてもおかしくはないでしょう?」
好きにしろと言ってきたのはあちらだ。
「それはそうかもしれませんが……危険ですよ」
「あら、何も私はこの身一つで旦那様を追いかけようなんて命知らずな事をするつもりはないのよ」
と言うか、普通に無理だ。
今の今まで、私は自身の職業もレベルも把握していなかった。神官レベル5というのは、修道院にいた一年間の修行で身に付いた力なのだろう。それでもたった一人ではスライム一匹倒せそうにないほど弱い。小柄で痩せっぽっちのダイナを連れ回す訳にはいかないしね。
「だけど冒険者登録をしておけば、旦那様の情報が集まりやすくなるでしょう? 何しろ、ギルド内は治外法権らしいから」
「お、奥様……そこまでして早く旦那様にお会いしたいとは、なんて健気な……」
勘違いで感激しているダイナには悪いけれど、別に夫婦としての好意で動いてるんじゃないんだけど……まあ訂正するのも面倒だし、今はいいか。
ひと仕事終えてぐったり疲れた私は、大きく溜息を吐くと、窓の外の景色を眺めながらこれからの予定を練っていた。
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