冒険者ギルド①
その後、控室から荷物を回収してきたダイナを伴い、私は冒険者ギルドへ向かった。道行く人やギルド内でもぎょっとした顔をされたけど、言うほど珍妙な格好ではない。むしろ冒険者の女性の方が役者や踊り子みたいな衣装なんだから。
「お待たせいたしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンター越しに聞いてきた受付嬢に、私は夫が三ヶ月間ダンジョンから帰ってこない事を告げた。結界はダンジョンを含む魔の森を覆い尽くすもので、今のところ冒険者ギルドに登録しなければ立ち入りは禁じられている。つまりメイズ侯爵の情報はここに登録されているはず。
「アルバート=ジェイコブ=メイズというのですが」
「ちょ……っ、奥様!」
口に指を当ててシーッ! とジェスチャーをするダイナに首を傾げていると、何かを察したのか受付嬢は「こちらに」と人の目のない応接室へと案内してきた。
「ダメですよ、領民たちの前で領主様が行方不明だなんて口外しては」
「本当の事じゃない。それに周りにいるのはほぼ領地外の人間じゃない?」
そんな事を話していると、受付嬢よりも幾分か年上の女性が入ってきた。細身だがよく見ると筋肉質で、もしかして元・冒険者だったりするのだろうか。
「お待たせいたしました。わたくし、メイズ侯爵領支店の責任者でございます。
お客様、先ほどは登録者の情報が欲しいとの事でしたが、他者に無断で開示する事は禁じられております」
「他者ってそんな……領主の妻でもダメなのですか!?」
無関係だと言われているようでムッとする。そりゃあ、ついさっき結婚したばかりの、しかも一度も会った事のない書類上の妻だけど。
「いえ、そういう訳ではありません。まず冒険者ギルドは支店がある国ではなく、組織そのものに属するのである意味治外法権と言えます。
そうでなくとも、恐らくですがメイズ侯爵が本名で登録している可能性は限りなく低いと思われます」
「えっ、本名じゃなくていいんですか!? ではリストに載っている名前は全員偽名……」
そんないい加減でいいんだろうか……と呆気に取られるが、偽名という言い回しが面白かったのか、責任者さんはフフッと笑ったので恥ずかしくなる。
「全くの……フフ、失礼。偽名では登録できないんですよ。登録する際には鑑定が行われるので、こちら側は本名をちゃんと把握していますし。ただ、冒険者は訳ありな過去を持つ人たちの集まりですから、便宜上の登録名は必要になりますね。
例えば侯しゃ……お客様の旦那様だと、『メイズ侯爵』は通称として使用できます。極端な話だと、『アル』のように愛称でも本名と紐づいていれば通るんです」
(なるほど、領主だからこそ余計バカ正直にフルネームでは登録できないのか。だけどそうなると、今まで出てきた名前はなかったって事よね。他に思いつけるパターンは……)
長い名前だから愛称なんて無限に出てきそうだ。
ふと、私は冒険者ギルドに旦那様の情報を直接訊ねる以外の方法を思いついた。
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