遣る瀬ない帰還
侯爵邸に戻った後、出迎えたドジスンさんにさっそく私は婚姻式 (※誓約書にサインしただけ)を滞りなく済ませた事と、冒険者ギルドに登録した事を伝える。
「旦那様の消息を追うのですか」
「好きにしろと言われても、今後の予定なんて考えていなかったしね。何にしろ、まずは顔合わせが先だと思って」
何せ今は、旦那様がどの程度ダンジョンの攻略を進めているのかも分からない。そのための情報収集だ。会ってその後は……わざわざドジスンさんに言う事でもないだろう。
「と言う訳で、とりあえず明日からは私もクエストに挑戦しつつ聞き込みを開始するわ」
「かしこまりました」
あっさり了承するドジスンさん。旦那様からそう命じられていたのもあるけれど、ダイナのように少しは危険だと反対される覚悟もしていたのだが……
「私が言う事ではないけど、心配じゃないの? 旦那様の事が」
「当主の証や、結婚指輪に使われている魔法玉は、持ち主の無事を知らせる効果がある事はお話しましたよね」
言われてエントランスに飾られた巨大な魔法玉をちらりと見遣り、私は頷く。これも魔道具の一種なのだろうか、近くで見ると鮮やかな赤い光でキラキラ輝いている。同時に指輪の宝石部分もこれに連動しているようで、魔法玉が輝きを失わない限りは持ち主も生きている、という事のようだ。
「だけど仮に生きているからと言って、無事だとは限らないんじゃない? 大怪我で動けないのかもしれないわ」
「それについても問題ありません。当主の証とその指輪は、持ち主が瀕死状態となれば一度だけ魔法が発動し、体力が全回復した上で強制的に帰還できるアイテムなのです。まあ旦那様ほどの魔術師であれば、そうそう命の危険にさらされる事はないでしょうが……ですので万が一の事態にも対処済みです」
そうなのか……道理で当主なのにダンジョン攻略が許されたはずだ。でも私の方はと言えば、一人じゃ戦えない低レベルの神官。指輪があるので一度は助かるだろうけれど、無計画に突っ込んでいって復活の奇蹟を即座に溝に捨てる訳にはいかない。
とりあえず入浴後に夕食をいただいた後、ゆっくり体を休めて明日に備えよう。
部屋に戻る途中、廊下の窓から中庭の様子がよく見えた。そこには因縁の噴水――私がエディス嬢を突き落とした方ではなく、ローリー様から指定されていた――が、変わらず綺麗な水を噴き上げている。もしも間違えずにこちらに連れてこれていたら、エディス嬢はずぶ濡れになったものの体を拭くだけで新しいドレスに着替える事ができたし、ペンダントの紛失だってなかったかもしれない。私の今の境遇だって……
今更考えてもどうしようもない事が頭を過ってしまい、私は頭を振って遣る瀬なさを振り切った。
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