隔離された半年間
今から半年ほど前、修行していた私は修道院の外の情報はほとんど遮断されていたのだけれど、それでも耳にしたのは魔王復活の噂だった。
最早神話と言ってもいいくらいいにしえの、この国に伝わる伝説。その魔王が封印されたのが、メイズ侯爵領にある魔の森だと言われているけれど、最近発生した魔物の数が尋常ではなく、王家も兵を出すかもしれないという話だった。
ただ、しばらくすると冒険者ギルドの出すクエストによって国外からの冒険者は増えたものの、それ以外の動きは聞かれなくなったのでてっきり落ち着いたものだと思っていたけれど。まあいつの間にかメイズ侯爵領が没落寸前になっていたので、領地内で犠牲を出しながらも何とか治めたであろう事は想像に難くない。
(その『何とか』が、領主自らダンジョン攻略に乗り出すとは完全に想定外だけど)
聞けば三ヶ月前の話だそうで、下手すれば婚約相手が私になる事すら決まってなくない、これ??
そんなに前から帰ってこないのは心配じゃないのかと聞けば、メイズ侯爵が所持している『当主の証』は屋敷にある魔法玉が使われているので、領主の身に危機が迫ればすぐに伝わるのだという。ちなみに指輪の宝石も同じものだそうだ。
「それで……私はこれからどうすればいいの? 旦那様が帰還されるまで、領地と屋敷を守れと?」
「いいえ、奥様も突然の事で戸惑いも多いでしょうから、慣れるまでは領地経営も難しいでしょう。そちらに関してはわたくしが全面的に任されております。
もちろん、参加を希望されるのであればレクチャーいたしますが」
「……は?」
「旦那様も『好きにしていい』とおっしゃっていたでしょう。奥様はこれから街の教会で婚姻の手続きを行っていただきますが、その後は侯爵夫人として切り盛りするのも、何もせずのんびりされるのもご自由です。……ただ、過剰な贅沢に関してあまり融通はできませんが」
ドジスンさんの言葉に、私は一瞬ぽかんとした後、沸々とお腹の底が熱くなってくるのを感じた。
ローリー様の妄想に基づく我儘で平民の女子をいじめた挙句、殿下に断罪されて一人罪を被って修道院送りになり、帰ってきたと思えば滅多に帰らず冒険者やってる中年の没落貴族に嫁がされ……
(これだけ振り回されといて、今更好きにしていいとか……やってられますかっての!!)
ぶち切れた私は自棄を起こしたかのように立ち上がり、すぐさま婚姻の準備をする事を告げた。
本当ならこんなふざけた縁談など蹴り飛ばしてやりたいほど憤っていたけれど、残念ながら一介の貴族令嬢に過ぎない私に拒否権はない。
仕方ないから、式だけは済ませておかなければ――とりあえずは、ね。
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