結婚に至るまでの経緯②
王太子殿下とローリー様の婚約破棄は、結局白紙となった。騒動からすぐに、隣国の王子からローリー様へ婚約の打診があったのだ。これは破滅後を想定した根回しの結果なのだけれど、それに待ったをかけたのが王家だった。
予想通りエディスは気に入られてはいたものの、所詮は平民で在学中の火遊びに過ぎなかったのもあるけれど、ローリー様を国外へと手放す事は大いに損失となる。
王妃教育を受けていたローリー様によって国家機密が流出する危険ももちろんだけれど、貴族籍を剥奪される事を考慮して公爵領で次々に事業に手を出して発展させていた手腕も考慮しての事だ。彼女の柔軟な発想は幼少期から神童と持て囃されるだけの事はある……その分、妄想癖も酷かったが。
無論、騒ぎを起こしたのをなかった事にできるわけがない。しかしいじめに対し指示や黙認をしていたローリー様にしろ、軽率に王家が決めた婚約を破棄しようとした殿下にしろ、責任を取るとなると立場的にただでは済まない。そこでトカゲの尻尾切りにされたのが、いじめの実行犯の私だったというわけ。
自分さえ身を引けばいいと思っていたローリー様は、ようやく罪悪感を持ってくれたのか必死で庇おうとしてくれたのだけれど、やんわりと断っておいた。
「一年ほど修道院で反省すれば戻ってこられるとの事ですから。ローリー様も悪いと思ってくださるなら、今後は滅多な事はおっしゃらない方がよろしいですよ」
「でも、婚約破棄は本当に起こったじゃない?」
それは貴女がそうしようとするからでしょ。
実のところ、彼女には子供の頃から意味の分からない我儘に振り回されてうんざりする事があった。だから単独で王城に呼び出され、沙汰を言い渡される際に申し訳なさそうにしていた陛下と大臣の罪悪感につけ込み、いい機会なので縁切りをする事にしたのだ。ついでにローリー様には未来の王妃としてしっかり教育を受け直してもらいたいと伝えておく。
幸い、家族は私の事情を理解してくれていた。陛下からはお務め後の身の振り方も保障すると言われたけれど期待はできないし、神に身を捧げる人生もいいかもしれない。何気にローリー様の予想していた追放先の一つではあるので、インフラ整備もバッチリだしね!
こうして追放された私は、進級するタイミングで休学し、修道院で一年間過ごした。貴族令嬢の身での清貧生活はなかなか厳しかったけれど、比較的平和な日々だったと思う。勉強にもなったしね。
ところがそろそろ王都に戻れるというタイミングで、王家からとんでもない打診が来たのだ。
私はすっかり忘れていた……あの断罪劇が原因で、殿下に恨まれていた事を。そう、いじめの主犯とは言え交際を認めていたローリー様ではなく、私が責任を被るのと引き換えにエディスと別れる羽目になったのを根に持っているのだ。だが体裁としては贖罪を受けているので、手出しはできない。
だからこの話が来た時には、考え得る限りの嫌がらせだな、と思った。玉座の間に呼び出した陛下の傍らで、嬉しそうにニヤニヤしていたから。
「息子からの提案でな。没落寸前だったメイズ侯爵家の再興に手を貸そうと思う。そのためにもワンダー伯爵令嬢には、侯爵家当主との婚姻を結んでほしい」
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