第5話 定年退職したら洗車業も悪くない?
「おおー、キレイになってるねー」
「アー君が洗って仕上げたんよ」
「えっへん!」
「少しは気晴らしになったようね」
土曜日の午前中は山鹿家の洗車タイム。近所の人が通りかかって軽く挨拶≪あいさつ≫していく。
自転車の小学生が急に止まって
「オイちゃん、これスカイラインでしよ、レースに出てる、カッコイイねー」
「へえー、クルマ好きなん」
「おじいちゃんがプラモデル持ってる」
「おじいちゃんも好きなんやね」
…レースに出てる~たぶんGT-Rのことなんだろうな。
日産自動車のスカイラインは最も車歴が長いモデルで定期的にモデルチェンジを積み重ねたが、山鹿史矢が愛車にしているR34型まではGT-Rも含めて、誰もがスカイラインとわかるスタイルだったので、GT-Rのレースのイメージに普通のスカイラインGTが被ってもなんら抵抗はなかった。
「いつもピカピカにするねー、ウチのも磨いてー」
「いいですよー、有料なら喜んでー」
ご近所さんが通りかかるたびに、こんな
洗車が片付づいて手を洗っていると、前にバイクが止まった。ピザ店だ。
「ちわー、お待たせしましたー、すいませーん、10分遅れましたー」
「んー、許す。お釣りある?」
お昼は出前ピザ。食欲の戻らない麻矢に、とにかく好きなものを食べさせよう作戦なのだ。
「いまのバイトの子、愛想良かったー、サービス業はこうでないと
「ピザ店のバイトって、免許いるよね、バイクの」
「そこがバイクしかないとね、自転車でも配達するところなら要らないんじゃないの」
「ふーん、そうねえ」
「なーに、アルバイト考えてんの?」
「うん、できればイイなと」
藝大美大進学予備校に日常的に通うことは、これまでの高校通いよりも遠い分だけ交通費もかかるし、両親に負担をかけるばかりなので自分の使う分くらいは何とかしたかったのだ。
「夏休みまでは予備校と併行してバイトもやれるんじゃないかと」
「バイトするなら、予備校が近いほうが時間調整しやすいよな」
「うん、だから近くて探してみようかと」
洗車が気晴らしと良い運動になったのか、麻矢の食≪しょく≫が進んでいる。たちまちLサイズの半分をたいらげてしまって、コーラのビッグボトルも半分あけてしまっている。
「よしよし、アー君の食欲が戻ったみたいね」
「…あ、調子に乗って半分も食ってた!」
「天神駅のそばよね、予備校は。少し行き過ぎるけど確認してみよか、バイトできるかも」
「え! あるん、近くにアテが」
「そんなにガツガツ稼がんでも良ければ、近くに取引先がある」
「なんの仕事?」
「はっきりわからんけど、今日教えたこと役に立つかもよ」
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