アーティストになる3リベンジ

USAのらきち

第1話 上京せずに熊本の大学に進学した2人 

君が代は 千代に八千代に さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで


 崇城大学≪そうじょう≫の中央キャンパス入口には、国歌「君が代」の歌詞が詠まれている「さざれ石」が佇む。

 入学してから、ちょっと退屈な3週間だった村田有紗と山本由香里。

 2人は2007年4月から同じ賃貸マンションをシェアして暮らすことになったため、より過ごしやすさを求めた室内レイアウトに精を出しながら荷物の整理整頓に時間をかけていた。


 もともとは熊本工業大学として歴史を刻んでいたが7年前に崇城そうじょう大学と改称、同時に芸術学部の美術学科とデザイン学科が設置されているから、村田有紗と山本由香里は8期生。2年前には薬学部も新規で設置され、改称されてからは女子の入学が目立ちだしたが、もともとの基幹である工学部には今年度から宇宙航空システム工学科に航空整備士養成コースが設置された。


 退屈だったのは大学のデザイン学科の講義の立ち上がり、初年度はデザインの基礎や美術の歴史から学ぶから。有紗と由香里も高校が芸術コースで美術専攻だったため、ゆっくりおさらいをしているようだった。でもおろそかにできない時間、2人はこの大学に教職資格や美術館学芸員資格を取得にきたのだから。


「今日はさあ、共用部屋のテレビの場所を変えようよ。棚を組み立ててからだけど」

「床に置いてるしね、その前にゲームしてなくてもプレステ置いたままだし」

「ゆっかぁ、今晩は何が食べれるかな?」

「パスタができるよ、それとサラダも」

「じゃあ買い物しなくてもイイね」

「あっ、おやつがないよ、やっぱりコンビニ寄って帰ろう」


 崇城大学そばの駅から電車で約20分揺られて、最寄り駅に到着した2人。大学は熊本市内だが家賃の手頃さと交通が不便でない周辺郡部の駅近のマンションを選択。2LDKでも家賃は市内よりかなり格安。

 駅から10分の道のりを歩いているところへ2人の携帯電話に着信。

「あ、マヤちゃん《山鹿麻矢》よ」

「ホント、山鹿さんだ、なんだろ?」


・突然ですいません。5月5日なんですが予定、空いていませんか?


「こどもの日? なんかあるのかな」

 有紗と由香里はコンビニ店の前で立ち止まって返信してみた。


・・何があるの? 

・・・明日からGW《ゴールデンウイーク》、実家に帰るんだけど


 明日の土曜日から5月6日の日曜日まで最大で可能なら9連休のゴールデンウイークなのだが、その終盤の5月5日に山鹿麻矢からのお誘いとは。


 桃園中央高校を卒業してから大学へ進学した友人たちからの連絡は今のところなく、東京・新宿のデザインスクールに入った森本麻衣子からのメールが頻繁にあるだけ。麻矢は福岡の藝大美大進学予備校に通っているらしいことは麻衣子を通じて~特待生認定試験を受けた~知らされているだけだった。


・5月5日19時、天神駅最寄りの今泉町、STスクエアです

・・何が見られるの? 夜だけど

・来てのお楽しみです


「夜に、来てのお楽しみって?」

「天神駅はたぶんマヤちゃんが通っている予備校の近くのはずよ」

「予備校的な何かイベントかなあ」

「あとで麻衣子サマにも連絡してみようか、何か知ってるかも」

「そだね」


 麻矢からの連絡が気になったまま歩みを進め始めた有紗と由香里、スイーツを買うつもりだったコンビニ店には立ち寄らなかった。

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