プライド

玉藻前達は華月の後を追うべく、戦いになる事を予想してその準備をしていた。

「華月が...動き出したようじゃ。」瞑想をしていた美代は皆に言う。

「すぐに向かいましょう!」慎司は言うと、美代は手で制する。

「暫し待て...。これは...こちらに向かってきておる...。」美代は瞑想したまま言う。

「どういう事ですか?倒した?」慎司は聞く。

「分からん。だが、鬼の力を使いながらこちらに向かっているのは確かだ。表に出よう。」美代は言う。皆外に出る。西の空に銀色の光を確認すると。華月は皆の前にその姿を現した。髪は銀色から黒色へと戻る。

「すまなかったな。」華月は皆に頭を下げた。

「華月様‼︎」綾乃は華月に駆け寄り抱きしめた。

「申し訳ございません。わたくしがもっと早くに華月様にお話するべきでございました。」綾乃は華月を抱きしめたまま言う。

「お兄ちゃん!」英鬼も華月に抱きつく。華月は微笑むと英鬼の頭を撫でた。

「華月、よう帰ってきた。」美代は言う。

「婆ちゃん...。」華月は言う。綾乃は華月を離す。

「儂からキチンとお前に話をするべきであったな。お前の本当の力を封印したのは、他ならぬ儂と加代子なのだから。すまなかった華月。」美代は華月に謝る。

「その事はもういいんだ。」華月は言う。

「倒したの?」慎司は華月に聞く。

「いや、結局分かり合う事は出来ずに、お互いに離れた。慎司、すまなかった。」華月は慎司に頭を下げる。

「よく逃してくれたね?」慎司は聞く。

「俺を倒す事が目的ではないと弥生の鬼は言った。今回は俺の力を測りたかったのだとか。」華月は言う。

「今回は...か。いつでも倒せるという事か...。」慎司は考え込む。

「...あぁ、その様だ...。」華月は静かに言う。美月との約束通り、美月と話した事は皆に伏せた。

「華月、お前の出した結論を聞こうか?」美代は華月に聞く。

「...俺は如月の鬼を今後も続ける。加奈には今まで通り、何も話す気はない。」華月は言う。

「そうか。今のお前なら、紅蓮に封印した力を使いこなす事も出来ると思うぞ。」美代は表情を崩さずに言う。

「俺が紅蓮から封印した力を取り戻すという事は、加奈に如月の鬼を継がせてしまう事になる。それは避けたい。」華月は言う。

「いつかは話さねばならんのではないか?加奈が不本意な形で知ってしまったら、先程のお前と何が違う?同じ事になりやしないか?」美代は華月に言う。

「...。」華月は黙り込む。

「もう1人で背負うのはよいのではないか?お前は幼少の頃より、妹想いの優しい兄じゃ。そんな兄の優しさを加奈はきっとわかってくれるはず。話してみんか?」美代は華月に諭す。

「...あいつは今大切な時期だ。話すにしても、高校に入って少し落ち着いてからだ。」華月は言う。

「...わかった。それまではお前が如月の鬼を続ける。だが、それ以降は加奈に継がせよう。お前が本来の力を取り戻し、加奈を守ってやれば、問題はあるまい。」美代は言う。

「...。」華月は黙り込む。綾乃は美代とやり取りをする華月を微動だにせず、じっと見ていた。

「今後、紅蓮は俺の手元に置く。」華月は言う。

「それなら、弥生の鬼に通用しそうだ。」慎司は言う。

「あぁ。切り札だ。」華月は静かに答えると、辺りを見渡し、英鬼を土蜘蛛の元に預ける。

「いつの間に。」慎司も辺りを警戒しながら言う。

「囲まれたか。」玉藻前は言う。

「右京がいる以上、儂らには手が出せんのではないのか?」美代は言う。

「来るぞ。」華月が言うと、森の中から一斉に人狼達が華月達に襲い掛かる。

「しつこいのぅ。」玉藻前は九尾の狐に姿を変えて、その尾を振るう。だが、人狼達は突風の中を通り越して玉藻前に迫る。

「何⁉︎」玉藻前は驚いた。体制が間に合わず、何体かの人狼の牙が届きそうになった所を、華月と慎司が止めた。

「...これは、ブラッディムーンを投与したか?」華月は言う。

「あぁ、格段に力が上がったね。」慎司も言う。華月と慎司は同時に人狼達を弾き飛ばした。

「何故あなた達がそれを知っているの?」雅は森の中からその姿を現した。先程、美月に貫かれた腹は治っており、獣人化した雅はゆっくりとした口調で聞く。

「工場見学に行かせて貰ったんだよ。」慎司はプラケースをカラカラと鳴らす。

「⁈それはフルムーンか?」雅は慎司に聞く。

「そうみたいだね。まだ飲んでないから解らないけど。」慎司は答える。

「良いのか?右京は?」玉藻前は雅に言う。

「もう要らない。バカにつける薬はないのだから。」雅は言い放つ。

「人質の意味ないね。」鈴音は言う。

「右京がいらないのなら、俺らと戦う意味はないのでは?」慎司は言う。

「...私達にもプライドってモノがある。フルムーンを投与したのに、やられっ放しではあまりに情けなさ過ぎる。」雅は言う。

「その為に自分の寿命を削るのか?」慎司は言う。

「貴様らに我らの想いはわからない!」雅は言い放つ。

「...待て。あなた達は本来の力ではない事に気づいていないのか?全ては弥生の鬼の心掌握術により、力は、ほぼ取り出されているはず。そんな状態でフルムーン、ブラッディムーンを使っても無駄に寿命を削るだけだぞ。」華月は言う。

「もう遅い‼︎我らは死してもその誇りを選ぶ!」雅は言う。

「誇りか...。俺にはわかる...。俺も先程粉々にされたところだ...。だがあんた達の様に簡単に命を捨てる様な真似はしない。俺には守るべきものがあるからな。紅蓮。」華月はそう言うと、紅蓮は玉藻前の家から飛んで来て、華月の手に納まった。慎司はプラケースの中から、フルムーンを一粒口に運んで飲み込んだ。その姿は見る見る内に獣人化し、白く眩い光を放つ。

「あなた達の寿命はそう長くないだろう。せめて、全力でお相手する。」華月は言うと髪色は銀色に変わる。

「俺と華月でやります。玉藻前様達は少し離れていて下さい。」慎司は言うと、一同は頷き、少し距離を取る。

「全力の白狼と、如月の鬼。我らの最期に相応しい相手よ!全員全力でかかれ!」雅が言うと、一斉に人狼達は動き出す。華月は紅蓮の鞘から刀身を引き出すと、襲い掛かる人狼に一閃した。炎は舞わずに人狼はパタリと倒れた。絶命していた。次々と襲い来る人狼達を華月は舞いを舞う様に紅蓮で切り付ける。全て一撃で斬り伏せ、炎は舞わず。

「あれは?何故炎が?」綾乃は言う。

「あれは、華月にしか出来ぬ事じゃな。普通の者が振えば、その力の強大さ故に、刀の外に炎は溢れ出す。だが今はその刀身の内に全ての力を凝縮した一撃となっておる。先程の慎司くんの一撃とは比べ物にならぬ位、重い一撃じゃ。ましてや、華月はその身に如月の鬼を宿したままの状態じゃ。やはりアヤツの器は計り知れんのぅ。」美代はニヤリと笑いながら言う。

「あれが本来の華月様の力?」綾乃は驚く。

「あぁ。紅蓮を制御出来ておるという事は、その刀身に封印されたものの力を100%使えると言う事じゃ。」美代は華月を見る。

「絶牙」慎司はそう言うと、慎司に襲い掛かる人狼は慎司と交差する度に倒れていく。倒れた人狼は絶命していた。

「あれが白狼の満月の力か...。」玉藻前は言う。

「華月さんも、慎司さんも凄まじいですね。」土蜘蛛は言う。

「あぁ。儂らの出る幕などない。」玉藻前はその姿を人型に戻した。華月と慎司は人狼達を倒し、雅1人となった。

「ありがとう。あなた方に倒される事で我らの誇りは守られる。」雅は2人に襲い掛かる。華月、慎司は一撃ずつ、雅に喰らわす。雅は倒れた。

「.,.後味悪いね...。」慎司は華月に言う。

「あぁ...。」華月は倒れた雅を見ながら言う。

「綾乃さん、右京を連れて来てくれ。」華月は綾乃に言う。

「承知いたしました。」綾乃は家に放置されていた右京を連れて来た。辺りの様子を見た右京は、人狼族に駆け寄ろうとしたが、手を後ろ手に縛られてバランスを崩して転んだ。華月と慎司は歩み寄る。

「...貴様の西の統治者としての怠慢、一族の主として、配慮に欠けた言動が生んだ結果だ。」華月は言う。

「弥生の鬼に裏で操られていたのは、仕方ないとして、その後のあなたが英鬼くんや、土蜘蛛さんにした事は赦されない。」慎司も言う。

「何か申開きはあるか?」華月は右京の口の猿轡を外す。

「わ、私はアイツ、美月に操られていただけです!」右京は叫ぶ。

「貴様が操られていたのは、紅蓮を使うまでだ。その後は解けていたはず。」華月は言う。

「い、いや、私は今も操られているのかも知れない!」右京は言う。

「見苦しいよ。右京さん。アンタは終わりだよ。」慎司は言う。

「女、子供に手を挙げる様な輩に、相応しい地獄を与えてやろう。」華月は言う。

「ま、待て!た、助けて、西園寺さん!」右京は綾乃を見る。

「残念ながらわたくし、あなたが大っ嫌いでした。」綾乃はニッコリ笑いながら言った。

「鬼眼!」華月の瞳が金色に光る。右京の身体中に蜘蛛が這いずり回る。地獄の餓鬼達は右京に向けて、無数の矢を放ちその身は貫かれる。

「ギィァアアアアーーーっ‼︎」右京は断末魔と共に気絶した。

「あれが、如月の鬼の裁きか...。」玉藻前は言う。

「でも目を覚ましたら?」土蜘蛛は言う。

「心配はいりません。華月様の行ったのは、無限地獄。目を覚ましたとしても、またそこから同じ地獄が始まります。死に至るまで逃れる事は出来ません。死に至ってもそこからは閻魔大王様の裁きが始まります。」綾乃は言う。慎司は時計を見る。20時半を回っていた。

「ヤバっ!鈴音ちゃん!急いで帰るよ!」慎司は言うが早いか、鈴音を抱き抱える。

「華月、後は任せる!」慎司は華月に言うと、跳躍した。

「忙しないのぅ。」美代は2人を見送りながら言う。華月は人狼族の亡骸に手を合わせると遺体を紅蓮で焼き払った。遺体は骨も残らずに空へと舞い上がって消えた。それを60数体分、丁寧に行なった。

「成仏出来たかの?」美代は華月に声を掛ける。

「本来なら手厚く葬りたいところだが、赦してくれ。」華月は最後の一体を焼き払う。

「お前と慎司くんが全力で戦った事で、この者達には無念な気持ちはないだろうよ。むしろ、誇り高い気持ちで行けたろう。」美代は空に手を合わせる。皆それに習う。

「さて、儂も帰るとするか。華月、いつでも儂を呼べ。」美代は言うと華月は頷く。地響きがして異界の門が現れた。美代はその中に消えて行った。

「俺たちも帰ります。」華月は綾乃を抱き抱えると玉藻前に言う。

「華月殿、西の統治者の件、お引き受けする。」玉藻前は華月に言う。

「宜しいのですか?」華月は聞く。

「あぁ。慎司殿は始めに言ったきり、最後まで儂に願う事はしなかった。だが、お主らの今後の事を考えれば、儂が引き受けた方が良かろう。儂にはそれ位しか出来そうにないしの。」玉藻前は笑う。

「いえ、玉藻前様であれば、西の地の妖し達も納得するはずです。ありがとうございます。」華月は頭を下げる。

「お兄ちゃん、また会いに来てね。」英鬼は言う。

「あぁ、母さんと婆ちゃんを大事にしろよ。」華月は言うと玉藻前と土蜘蛛に一礼をし、跳躍した。

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