甘さ

綾乃は行きと同じく、丹波口駅近くのパーキングで車を止める。鈴音は行きと同じく車内で着替えを終えた。

「綾乃さん、ありがとうございました。」慎司は言う。鈴音もお礼を言う。

「お2人共、お疲れ様でございました。」綾乃も答える。

「華月、明日は頑張ってね!品評会見に行くよ。」慎司は華月に言う。

「一般の見学が出来るのかはわからんぞ。」華月は言う。

「そこはゴリ押しで懇願する。」慎司は言う。

「今日は屋上には行かんぞ。何かあれば電話をくれ。」華月は言う。

「帰って沙希ちゃんとマリアの説得かぁ...。中々に骨が折れるよ。」慎司は落ち込む。

「私がちゃんと言うから。」鈴音は慎司に言う。

「何も言わんと思うぞ。」華月は言う。

「だから、華月は甘いって!」慎司は言う。

「まぁ、納得しなかったら電話をくれ。じゃあな。」華月は車に乗り込む。綾乃も2人に挨拶をすると、運転席に乗り込んだ。慎司と鈴音は駅へと歩き出す。

「...ねぇ、慎司くん。」鈴音は慎司に話かける。

「ん?」慎司は鈴音を見る。

「保さんていい人だったね。」鈴音は言う。

「そうだね。」慎司は答える。

「私、大宝製薬の人は皆悪い人だと思ってた...。」鈴音は思い出す様に言う。

「無理もないさ。鈴音ちゃんはいきなりラスボスに狙われていたんだから。そのイメージが強くなるのは仕方ないさ。」慎司は言う。

「うん...。何かわかんなくなっちゃって...。」鈴音は工場で見たラットが自分の様な気がしたのと、保の様な善人が働いていた事、北條や東の様に私利私欲の為に手段を選ばない者もいた事などが頭を駆け巡っていた。

「...どんな研究をしていたって、どんな薬が出来上がったって、結局はそれをどう使うかによって善にも悪にもなるんじゃないかな?」慎司は言う。

「そうだよね...。私の力もそうなのかな?」鈴音は聞く。

「きっとそうさ。鈴音ちゃんの力は神様が与えた奇跡。きっとその力で救える人がいるさ。」慎司は笑った。

「でも、私、少し怖い。」鈴音は言う。

「トラウマだよね。アイツらが鈴音ちゃんとお母さんにしていた事を考えればそれが普通だよ。」慎司は鈴音を見る。

「でもこれからは、絶対にそんな事はない。」慎司は力強く言う。

「どうして?」鈴音は聞く。

「...俺が守るからさ。」慎司は鈴音を真っ直ぐに見つめながら言う。鈴音の顔は見る見る赤くなる。

「さぁ、帰ろう!」慎司は鈴音の手を恋人握りで握った。


旅館に戻った華月と綾乃は、夕飯と風呂を済ませ就寝前の一時を過ごしていた。

「華月様、本日はお疲れ様でございました。」綾乃は華月に言う。

「綾乃さんこそ、お疲れ様でした。それにしても、いつの間に名刺とか、アポとか取ったんですか?」華月は疑問を綾乃にぶつける。

「大宝製薬舞鶴工場のお話が出た時に、工場見学は思いつきました。すぐ様必要な物を忍びの仲間に用意して持ってきて頂いた次第でございます。」綾乃はニッコリと笑う。

「忍びって凄い...。」華月は言う。

「凄く等ございません。戦国の時代より、情報収集は生業の1つとしてその身に習得いたします。情報収集で得たものを踏まえて、必要な物品や作戦を考えていくものでございます。」綾乃は言う。

「綾乃さんの他にも忍びっているんですね。」華月は言う。

「はい。その時代に合わせる様に忍びの形も変わってきております。」綾乃は答える。綾乃は続ける。

「例えば、情報収集に特化した者、戦闘に特化した者、変装に特化した者等、多種多様でございます。」

「つまり、ハッカーや、殺し屋、メイクアップアーティストも忍びの技が進化した者という事ですか?」華月は聞く。

「左様でございます。」綾乃は言う。

「綾乃さんの様にオールマイティな忍びってどれくらいいらっしゃるんですか?」華月は聞く。

「わたくしはオールマイティ等ではございません。特化する物がないだけでございます。」綾乃は言う。

(いやいや、全てが特化しているだろ?)華月は心の中で思う。

「ハッキリとはわかりませんが、わたくしが普段やり取りをしている者達で、300は下らないかと。」綾乃は答える。

「300...。一体どうやって?」華月は考え込む。

「一般の方と同じでございますよ。インターネットでコミュニティに所属し、持ちつ持たれつの相互関係を構築しております。」綾乃は答える。

「じゃあ、綾乃さんが別の忍びの必要な物を用意する事もあるって事ですか?」華月は聞く。

「左様でございます。」綾乃はニッコリと笑う。

(ホントに凄い!こんな人が俺なんかに仕えていていいのだろうか?)華月は疑問に思う。

「あ、でもわたくし1つだけ、特化しつつある事がございます。」綾乃は妖艶な笑みを浮かべた。綾乃の笑みを見た華月は身体が硬直するのがわかった。

「...何ですか?」華月は勘づいていたが聞く。

「華月様を気持ち良くさせる事でございます❤️」綾乃はそう言うと華月に濃厚なキスをする。華月は黙って受け入れる。

「華月様、お覚悟を❤️」綾乃と華月は肌を重ね合わせた。


慎司達はホテルの廊下で今日の話をしていた。

「で、鈴音を連れて行くって訳ね。」沙希は慎司に言う。

「うん。多分、私の力が必要になる。そんな気がするの。」鈴音は沙希の顔色を伺いながら言う。

「わかった...。私とマリアは2人がいる様に偽装するわ。」沙希は言う。

「えっ?それだけ?」慎司は驚く。

「何よ、私とマリアが行きたいって言うと思ったんでしょ!」沙希は慎司に言う。

「うん。」慎司は素直に頷く。

「私達まで行ったら、誰があんた達の偽装工作するのよ。」沙希は言う。

「そうでーす。」マリアも言う。

「意外だったよ。理解があって助かるよ。」慎司は手を合わせる。

「役割は果たすわ。だからかづちゃんや、しんちゃんが戦えるんだもの。でも、約束は忘れないでね。」沙希は言う。

「わかった。」慎司が頷くと鈴音も頷く。

「さぁ寝ましょ!明日はかづちゃんの晴れ舞台なんだから!おやすみ!」沙希は言うとホテルの自室に戻る。

「good night!」マリアも続く。

「華月くんの言った通りだったわね。」鈴音は慎司に言いながら笑う。

「あぁ。俺のが甘かったよ。」慎司は素直に言った。


「右京様、品評会の最終チェック終わりました。」雅は言う。

「ご苦労様。何かありましたか?」右京は雅に聞く。

「何もありません。如月華月の花もございません。」雅の報告を聞いて右京はニヤリとする。

「明日、直接持ち込むつもりですね。手筈通りにお願いたしますよ。」右京は雅に言う。

「承知しました。大江山の方は如何いたしますか?」雅は聞く。

「夕刻になったら酒呑童子を攫い、まずは玉藻前を誘き出します。如何に玉藻前と言えど、フルムーンを投与した、人狼族多数を相手にしたら捕われの身となるはずです。最悪、ブラッディムーンもある事ですしねぇ。」右京は笑う。

「如月華月達は来ますかね?」雅は言う。

「必ず来ます。白狼の小僧も一緒にね。人質となった酒呑童子と玉藻前を盾に取り、綾乃さんには陽炎を手放していただきます。わかっているとは思いますが...。」右京は雅を見る。

「西園寺様は傷つける事なく、捕縛いたします。」雅は言うと右京はニッコリと笑う。

「大江山に入る際に、土蜘蛛の糸に気をつけなさい。」右京は雅に指示する。

「承知いたしました。全員に周知しておきます。玉藻前と酒呑童子は捕えるとして、土蜘蛛は如何いたしますか?」雅は聞く。

「明日、酒呑童子を捕えれば用済みです。捕らえた後に始末してしまいなさい。」右京は笑う。

「承知いたしました。」雅は頭を下げる。

「明日は私が指揮を取ります。各々良く休む様に伝えなさい。」右京は言うと、雅は一礼をしてその場を去る。

(明日が楽しみですねぇ。)右京はほくそ笑んだ。




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