第275話 一応の決着

そして一ヶ月と少し経ったころ、罪状が確定した罪人たちの処分が発表された。

罪状は城門前に張り出されたが、あまりの多さに、どこぞのマンモス校の合格発表みたいに掲示板が並んでた。


これだけ罪状が並べば普通は死罪なのだが、被害を訴えて来る住民たちから希望する処罰内容を選んでもらった結果、次の処罰となった。


人権を剥奪し、罪人と書かれた服を着て、日中は汚物やゴミの処理。

夜は公的な魔道具施設(冷蔵食料保存庫や照明)に、魔力が枯渇するまで魔力供給。

寝泊まりは牢屋で、食事はカチカチ棒。

賃金は当然無く、恩赦も無い永久労働。


死刑を望む人も多かったが、国民のために使い潰す選択が死刑を上回った。

これ以降、鞭打たれながら汚物やゴミを処理する罪人の姿が、町中の各所で見られた。


その他軽微な犯罪や犯罪を強制されていた者は、罪に応じた期間の無償労働となった。


また今回の捜査で、例の議員資格を停止された国に魔素吸収魔法陣を販売した契約書が見つかった。

十二年ほど前のその契約書には、新築する建物の設計図と魔法陣の配置図、ミスリル配線図まで付属していた。

レヤンシュさんに聞き取りしたところ、さらに五件も魔素吸収魔法陣を海外で設置していたことが分かった。


今すぐ行って変質魔素の流出を止めたいところだが、各国代表からは慎重意見が出た。

今回この国の魔素吸収魔法陣を止めるためには、多大な労力を要した。

しかもスタンピードという偶発的事件がなければ、未だに監査が実行できていなかった可能性もある。

更に監査が実行できても、魔素吸収魔法陣が止められていれば、残存変質魔素を判別できる私以外では、発見は不可能に近い。


ここで王弟殿下から、絡め手の提案があった。

魔素吸収魔法陣から漏出する変質魔素が人体を徐々に魔人化させる可能性大と、国際会議から発表するのだ。

実際この国の魔素吸収魔法陣が設置されていた場所の周辺では、人格の変貌、傷害事件、猟奇的殺人などが他の場所とは比べ物にならないほど多発していた。

実際に魔人化したかどうかは被疑者が死刑になっているため確認できないが、魔人化しかかっているとしか思えないような人格の変質が親しい者から証言されている。

国際会議がこのことを発表すれば、魔素吸収魔法陣を隠れて使っている者たちには、かなりの脅しとなるだろう。


魔素吸収魔法陣は魔道機械を動かす動力として使われる。

遠くに設置して魔素を送るのは、ミスリルの伝送損失のせいで不可能。つまり魔道機械のすぐ近くに魔素吸収魔法陣はある。


それは、魔道機械を使う者が、漏出する変質魔素に触れていると言うことだ。

権力者が隷属させた人を使って魔道機械を利用しようとしても、いずれ魔人化して権力者に牙を剥くとなれば、使用をためらうのは当たり前だ。

初期症状が、怒りっぽくなる、肉食が多くなるなどと発表すれば、疑心暗鬼になること間違いなしだ。実際にはそうなっていなくても。


まずはこの発表で魔素吸収魔法陣の使用をためらわせ、その間に残留変質魔素を感知できる者を育成しようというのだ。


王弟殿は、正式な手続きばかりにこだわっていると、変質魔素の発生を止めるまでに時間がかかりすぎると判断したようだ。

正道主義だったはずの王弟殿下に、いったいどんな心境の変化があったのだろうか?


王弟殿下の提案は、監査の困難さを体験した各国代表によって可決された。


こちらに来てから一月半、長かった国際会議の仕事を終え、各国代表たちは帰途に着いた。

飛行機以外の魔道具船や魔道具、魔道具用魔法陣の輸入と、各国からの魔道具技師見習い受け入れを条約締結して。


一ヶ月半もの長い間各国の指導的立場にある人材を束縛することになった今回の監査団(のはずだった)派遣は、各国代表たちが相好を崩す成果を各国にもたらした。


だが一方で、貧乏くじを引いた者が一人だけいた。

うちの国は魔獣罠や新魔法、魔道具の提供で国際会議に多大な貢献があったと評価され、国際会議主要国に仲間入りした。

しかも各大国の代表と共に政治体制の崩れた国を立て直す作業に従事したため、王子様との個人的友人関係まで出来上がっていた。


これはうちの国にとってとんでもない快挙。

王子様は玉座に近付き、国際会議主要議員としての立場と、各大国代表との個人的友誼を手に入れた。


地方都市あたりでのんびり仕事したいと願う王子様は泣いていいと思う。

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