第273話 衰退? いいえ、元に戻るだけ

会議か終わって王子様に呼ばれ、最近は暇がなくてできてなかった久々のティータイム。


「恥ずかしいことに、ヒナタに指摘されるまで手を出しすぎていることに気付かなかった。指摘、感謝する」

「いやぁ、あれ、正論ではあるけど、一種の逃げなんだよね」

「逃げか。…そうかもしれんな。あれだけのメンバーが頭を悩ませて結論が出ないのだ。国を盛りたてて行くのは容易ではないだろうな」

「そこだよ。王子様たちは皆為政者だから盛りたてる策を考えるけど、本当にそうしなきゃいけないのかな?」

「…衰退も国の定めだと?」

「そうじゃなくて、元に戻るんじゃないかと思ったの」

「元とは?」

「この国は、地理的にも資源的にも条件が悪すぎる。普通ならもっと小さい国のはずなんだよ。なのにここまで大きくなったのは、魔道機械という発明があったから。だけど今は、魔道具という魔導機械より性能がいい物ができた。だったら、魔道機械に代わる大きな収入源がなきゃ、国の規模は維持できないよ」

「なるほどな。我々は、魔道具並みの技術を求めて悩んでいたわけか。それはまた、とんでもないものを求めていたな。国が経済規模に見合った大きさになるのは、ある意味当然のことだ。そうなると魔道機械という収入を無くしたこの国は、現在人口過多な状態か。緩やかに人口を減らす策を考えた方が良いかもしれんな」

「考えなくても大丈夫だと思うよ」

「それでは将来餓死者が出るぞ」

「この国は、勝手に人口が減って行くはずだから」

「…魔獣被害か?」

「違うよ。移民」

「国民が国を捨てる?」

「そうじゃなくて、国民は住みやすい場所を求めて移動するだけ。今までこの国は、通商をごく一部の権力者が牛耳ってきた。それはどうして?」

「住民を隷属させる武器として食料を使うのに、入手方法を独占するためだな」

「ところがこれからは、権力者の手下じゃない国民が船乗りとして外に出られる。この国の食料事情と他国の港の食糧事情、比べて愕然とするよね」

「……そうか。他国の食糧事情を見た船乗りたちは、家族を連れて移住したくなるな」

「お隣さんが移住の挨拶に来たら、なんでって理由聞かない?」

「そうやって他国の食料事情の良さが拡散されていくわけか。他国に移住する希望を持つのは、土地に愛着の少ない若い層だ。若者が減った国など、人口減少に拍車がかかるな。だが、仕事はどうする? 他国に行っても、仕事などすぐには見つからんぞ」

「あるじゃない、魔物討伐って仕事が」

「…魔物討伐を国民の義務としている国は多い。うちは貴族だけが義務だが、当然足りなくて平民の討伐兵を募集し続けているな。だが、他国に行ってまで危険な魔物討伐に従事するのか?」

「この国のフロントラインは長過ぎる。国民が何度も魔獣討伐に駆り出されるほどに。どうせ魔物と戦うなら、美味しい食事の場所の方を選ばない?」

「地理的条件が悪すぎると言ったのは、魔獣最前線の長さも理由か。……ヒナタは先の会議で解決策を言わなかったが、なにか策はあったのか?」

「延命策しか無いよ。ひとつはミスリルの販売量を制限すること」

「販売量を制限すれば鉱山閉山の時期は先に伸びるだろうが、稼げる外貨が少なくなるぞ」

「もうすぐミスリルは大高騰するから、高値になるまで貯めておくのよ。そして高値になっても在庫一掃はぜずに、価格の下落を防ぎつつ売るの」

「ミスリルが高騰…するな、必ず」

「でしょ? 魔道具は魔道機械の比じゃ無いほど売れる。だったらミスリルは、必ず高騰する。その高騰した値段でミスリルを売れば、継続的に外貨が入って延命にはなるでしょう」

「…もうひとつは?」

「フロントラインでレベルアップツアー」

「何を言っている。わざわざここまで来ずとも、自国に嫌というほど魔物がいるではないか」

「それはいつまで?」

「…変質魔素の発生が無くなり魔獣罠や破壊矢の魔法が定着すれば魔獣は減っていくだろう。だが、それはここでも同じだぞ」

「うちの国、魔物がいなくなった森はどうするの?」

「それは資源化するに決まって……。そうか、ここは資源化するような森ではない。各国が森を取り戻して資源化すれば、魔獣の元となる森の動物も減る。ここよりも早く魔獣が減ってしまうのか」

「ここの魔の森はジャングルだから、開発に不向きで森を狭めたりしない。しかも熱帯の広いジャングル内には、魔獣化できる野生動物がたくさん生息してる」

「…充分な延命策だな」

「あとは延命策を足しただけだけど、世界中で高騰して品薄なミスリルがここにはあって、魔道具技師に必要なレベル上げ用の魔獣もいる。魔道具技師になりたければ、いい環境じゃない?」

「それは単に足しただけではない。もうひとつの延命策だ。世界で魔物が消えかければ、ここに魔道具技師の卵が押し寄せるぞ」

「魔物が消える前に新たなレベルアップ方法を確立しないと、遠い将来の魔道具技師がいなくなって、魔道具で発展した社会が支えられなくなるよ」

「そうだった。その課題もあったな。辺境に引きこもる誰かは、新たなレベルアップ方法を開発したりは――」

「開発が早いと魔物がなかなかいなくならないじゃん! 魔物を魔道具技師のレベルアップ用に消費するから魔物が早く減るんだよ。魔物倒さなくてもレベルアップできちゃったら、わざわざ魔物がいる辺境に行って怖い思いしてレベルアップしないでしょうに」

「魔物を消費……もはや資源扱いか!?」

「あいつら人や動物を襲うしか能がないんだから、せめて資源化してすり潰さなきゃ、被った被害を取り返せないよ」

「魔物から被った被害をレベルアップという形で魔物から取り返す? 魔道具で発展する将来のために魔物をすりつぶす? しかも魔物で外貨を稼ぐだと!? 意義も意味も分かるが、思考がぶっ飛びすぎだ!」

「何も取り返せないよりいいじゃん!」

「この話を、私が陛下や国際会議の皆に話すのか…。正気を疑われるな」

「ひど! 一生懸命考えたのに!!」


この会話から数日、王弟殿下が珍獣を見るような目を向けてくるようになった。

他の各国代表は今まで通りなので、王子様は例の話を王弟殿下だけにしたみたい。

各国代表全員には話をしなかった王子様の配慮を喜ぶべきか、珍獣と見られる自分の思考を悲しむべきか、なんだか複雑な心境になった。

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