第179話 外輪船、改修できました
さて、王子様への注意喚起も済んだので、頑張ってお仕事しなきゃ。
まずは箱の中身を鍵部分以外全部取り外しちゃって、取り出した魔法陣の出力確認から。
前回私が試したように、床に魔法陣を置いて魔力供給。
魔法陣の上に乗って自分が回転しないように逆トルクを魔法で掛けてもらい、トルクの強さを体感してもらいます。
そのくらいのトルクを発生する魔法陣を作るんだからね。
三人共に魔法陣を作ってもらい、みんなで体感テスト。
ノーラの魔法陣が一番消費魔力量少なくてトルクも出てたので、ノーラのを採用しました。
次に作ったのは速力調整レバー。
今度のはスライド式で無段階可変仕様。
目安に目盛りは刻むけど。
前回の改修では準備不足で魔法陣と回転部の距離で出力調整したけど、今度のはミスリル合金での供給魔力制御だから、低出力時は魔力消費も少ないよ。
レバーの取っ手にミスリル線を這わせ、ここからスライド式のミスリル合金に魔力供給する仕組みです。
ついでに取っ手を蓋式にして、中に魔力球を入れられるようにしました。
下部にはミスリルと鉄の合金棒が取り付けてあり、レバーがその上をスライドするから、低速時の消費魔力量低減効果もばっちりです。
みんなに構造を説明しながら取り付けは各自交代でやってもらい、どんどん組み上げていきます。
みんなもう材料の変形なんかは簡単にできるので、強度的な補足説明をしながらの組み立て。
うん。改修完了です。
「王子様、できました」
「横で見ていたが、本当に早いな。リーナまで一瞬で鉄を加工できるようになっておったとは…」
「だから、それはリーナが頑張ったからだって」
「…そうだな。リーナ、よくぞ励んだ」
「ありがとうお父様。これも教え導いてくれた三人のおかげです」
「ああ、その通りだな。親として其方らにはいくら感謝してもし足りぬほどだ。何か褒美でも――」
「やーめーてー! さっきお屋敷で感謝は受け取ったから!」
「いや、しかしこれほどの技術を伝授してもらっておいて、感謝が言葉だけでは絶対に足りぬぞ」
「あー、じゃあさ、私たちをリーナの友達認定してよ。私的にじゃなく公的にも。ノーラとカレンはそれでどう?」
「ヒナタ。公的にもって、まさか私たちがリーナのご友人として他者から扱われるってこと? 私、平民だよ? そんな恐れ多いことあっていいの?」
「実際には先生であり、生活の面倒まで見たお姉ちゃんじゃん」
「それはそうだけど…」
「ふむ、リーナはどう思っておるのだ?」
「公私共にお友達です。もうみんな、家族に近い安心感があるもの」
「そこまでか。分かった、リーナの友人として王家に登録しておこう」
「え? そんな登録制度あるの?」
「あるのだよ。例えばヒナタが王城にリーナを訪ねて来ても、普通は王城には入れないしリーナに連絡も行かない。だが、友人として登録されると特別な身分証が発行されて、それを門で見せればリーナに連絡が行き、リーナが会うと言えば城内に案内される。手紙の場合も、侍女が確認はするが、開封されずにリーナの下に届く」
「うわぁ。リーナ、王城生活は大変なんだねぇ…」
「そこも大変そうだけど、そこじゃないから! 平民がそんな身分証持っちゃっていいの!?」
「ぜひ持っててほしいわ。みんなが来ても会えないなんて、絶対嫌だから!」
「私も代官様の養子になったからほとんど平民よ。いいのかな?」
「君たちは今回の改修が終わったら、宮廷魔導士のように王家直臣の法衣爵位が与えられる予定だ。無許可でも登城できるように、最低でも子爵位だぞ」
「…ヒナタが言ってたこと、やっぱり本当だったんだね。いずれはそうなるかもしれないって覚悟はしたけど、早すぎない?」
「いや、国としては他国や高位貴族から目を付けられないうちに、早く直臣として囲いたいんだよ。だから今回の件で法衣子爵位、工房で見習いさんたちを教育して立派に世に出せば、もう一段くらいは上がるんじゃない」
「…ヒナタ、それが分かっているということは、やはり今回も受けてはもらえぬのか?」
「他国の人間が受爵したりしたら、絶対嫌がらせする人出てくるって。そんなことになったら、魔道具技師養成に支障出ちゃうよ」
「それは…」
「ほら答えにくいでしょ。ヘンドリックは実家が子爵家だったよね。苦労しなかった?」
「……この流れで答えるのは控えさせてください」
「あー、ずっるーい」
「ねえヒナタ、私とカレンはいいの?」
「たとえ平民でも、自国の国民が実績挙げたなら受爵は当然だから。まあ年齢を理由に難癖付けてくるのはいるだろうけど、何年も北砦での魔道具技師養成に従事するから変なのと会わなくて済むはずだし、魔道具作ったり魔道機械改修できるのは自国民で三人しかいないんだよ。これからの実績で批判も黙らせられるって」
「それじゃあヒナタだってそうでしょ?」
「ちょっと違うんだ。魔道具って言う重要な技術を他国の人間が牛耳れるような位置にいると、いつかいなくなるんじゃないかって上の方は安心できないんだよ。だからリーナやノーラが前面に出れば、そんな不安は出てこないから」
「……いなくなったら嫌だよ?」
「できる限りいるようにするっていうのが、ノーラの魔道具技師就任の条件だったでしょ。だからそう簡単にはいなくならないよ」
「うん、わかった。でも、リーナの友人としての身分証は受けてあげてね」
「うん、そのつもりだよ」
「話は纏まったようだな。では、試運転と行くか」
「殿下、それなのですが、今回は信の置ける船乗りたちがまだ航海から戻っておりません。戻りは明日の午後の予定ですが、いかがいたしましょう?」
「そうか、それは困ったな」
「あの、船をぶつけずに湾外へ出るだけなら、私がやろうか?どうせ国際会議で見せつけるなら、ここで湾内低速航行見せてもいいでしょ?」
「何っ、ヒナタは操船技術もあるのか?」
「いや、持ってないよ。だけど、ぶつかりそうになったら魔法で何とでもできるから。例えばこんなふうに」
まだ外輪船は係留されたままだからロープの長さ以内しか動かせないけど、魔法で前後左右、上下にも動かしてみた。
「…………頼めるか」
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