第177話 また変なの居るよ

ドック着いたら、今回は大物資材搬入路らしき場所から箱車でそのままドック入り。

なるほど。これなら私たちの姿が見られなくて済むね。


ドック内で箱車降りたら、軍服着た軍人さんたちが並んで敬礼してた。

そっか、軍の高官でもある王子様来てるから、出迎えるのは当たり前か。

王子様の『なおれ』の言葉で、きれいに揃って手を下ろしてる。


「ライナルト、警備状況は?」

「はっ。魔道機械船入港より付近をうろつく不審者が増え始めましたので、捕縛して身元を調査。解放時に街主様にご協力いただき、密かに追跡調査していただいておりますが、いまだ背後関係は確認できておりません」

「外輪船入港は二日前。相手も前回手下が捕縛されて慎重になっておろうから、すぐには馬脚を現さんだろう。引き続き街主殿と協力し、背後組織の特定に努めよ」

「はっ、了解いたしました!」

「第二王子殿下、発言よろしいでしょうか?」

「ヒナタ、其方は娘の友人であり師でもある。そして今回は善意の協力者だ。言葉遣いはいつも通りで頼む」

「あ、はい。あのね、ドックの桟橋の下に、人が十人潜んでるよ」

「なっ!…ライナルト、捕縛準備を」

「水中に逃げられるといけないから、魔法で引っ張り出す?」

「…頼めるか?」

「了解。桟橋の近くまで、みんなで行こう」


王子様がライナルトに頷き、縄を準備した軍人さんたちを引き連れてぞろぞろ移動。

桟橋のたもとまで来たので、桟橋下の水中にいる十人を魔法で空中に引きずり出します。


!!??!???!?!?!


おー、隠れてたのに突然引きずり出されて驚いて暴れるけど、それでも声は発さないんだね。なんかプロっぽいな。


おや、ガイが魔法使ってるような身振りしてる。

両手を突き出して、空中に浮く不法侵入者たちに向けて掲げてる。

ああ、不法侵入者に対して、私じゃなくてガイが魔法使ってるように見せてるのか。

じゃあ私は、ノーナを守ってるふうにノーラの前に立ってよう。


侵入者を地面のある場所に移動させ、一人ずつ下ろして軍人さんに捕縛していってもらう。

ガイ、左手は挙げたままで、一人ずつ降ろしてる不審者に向けて右手を動かしてる。芸が細かいな。

やがて不審者全員が捕縛され、連行されて行った。


「…十名もの人を一度に空中に吊るし上げるか。とんでもない魔法だな」

「リーナも現時点で数人くらいならできるはずだよ」

「現時点で数人…」

「そんなことより、気になってることがあるんだけど聞いていい?」

「…なんだ?」

「前回船底に潜んでた人、誰の命令か分かったの?」

「ザームエルの指示だと供述している」

「それ、おかしくない? あれほど感情が抑えられない馬鹿中佐が、わざわざ人を潜ませる? 私たちを殺そうとするほどの短絡思考だったのに?」

「…ザームエルの取り調べでは、支離滅裂な言動が多すぎて、指示したかどうか分かっておらんのだ」

「そこもおかしいよね? いくら親が軍の高官だからって、あれほど愚かだと中佐なんて務まらないでしょ。感情が抑制できなくなる薬とか、中毒になるおかしな薬を盛られてない?」

「……最近の取り調べでは、少し話の整合性が取れて来たとの報告はあったが、新事実は出ていないから気にしていなかった。…まさか、薬物が抜けて来たということか?」

「可能性の一つだけどね。でもさ、魔道具に関する間者の動き、早すぎる上にがっつり本気度高いよね。今回だって、プロっぽい侵入者十人も送り込んでるし」

「…すまぬ。親族を疑いたくはないが、魔道具のことは王族とごく一部の高位貴族しか知らぬ。王城から機密が漏洩しているのだろうな」

「う~ん…。そうじゃなくて、他国なんじゃじゃないの?」

「いや、それこそ動きが早すぎる。まだ国内の貴族でさえ、ほとんど知らんのだぞ」

「魔道機械船修理するのはドックでしょ。ドックの関係者が行く店なんかに網張って、お酒や薬で口を軽くすれば、いち早く情報を入手できるよね。で、それほどの数の間者を他国に送り込めて、即、十人ものプロを動かせる組織なんて、例の国くらいじゃないの?」

「なぁっ!? あの国が糸を引いていると言うのか!?」

「だって他の国の場合、あの国以外で魔道機械船作れるようになったら、独占市場が崩れるから普通は喜ぶでしょ? それに魔道具の秘密を欲したとしても、不確かな情報だけで、いきなり十人も派遣するほど本腰入れるかな?」

「…魔道機械船の修理など、ドック関係者でも内容は全く知らんはずだ。そのような不確かな情報だけで、いきなり本腰は入れんな」

「そうなのよ。前回の改修も、魔道機械船が修理できたって情報くらいしか入手できないはず。つまり、魔道機械本体を開けられたかどうかも分からないのに、そんな不確かな情報だけで本腰入れて動かないでしょ。でも、あの国だけは本腰入れなきゃいけない。わざと壊れる作り方した魔道機械の秘密がバレるのは困るし、万一他の国が魔道機械作れるとなったら、独占市場なんて維持できない。両方とも、国としての致命傷になりかねないもん」

「殿下。かの国からは、文化交流のための使節団派遣や、出稼ぎ労働者の受け入れの打診が私の下に来ておりました」

「そんなもの、間者の増員以外に理由は考えられんではないか!?」

「私もヒナタ嬢の話を聞くまでは、『珍しいこともあるものだ』くらいにしか考えておらず、許可を出してしまいました。不覚にございます」

「額面通り、文化交流と労働者受け入れればいいんじゃない? 魔道機械の無い領で。あと、到着した船から夜中にこっそり上陸されないように、船も魔道機械も無い領で受け入れれば?」

「いや、街主である私が入港許可を出したからには、この町で受け入れなければならないのだ」

「話を聞いた第二王子殿下が趣旨に賛同して、我が国の伝統文化が残る領に招待します。労働者が海外に出稼ぎしなければならないほど困窮しているのならと、豊かな農業地帯での就業も斡旋します。街主様は好意で第二王子殿下に話して王子様が肩入れしてくれたんだから、目的地が変わってもあの国は文句言えないでしょ」

「……それで行こう。入港前に洋上で捕捉して他港に向かえば、間者は降ろせん。しっかりと我が国の伝統文化を学び、食料生産にも貢献してもらおう」

「受け入れのセレモニーとかしたら、顔が引きつるかもね。ただ、他国やこの国の貴族が動いてる可能性も残ってるから、一応そっちも警戒はお願いします」

「くくく。魔道機械船の無い港で歓迎されても、笑顔を浮かべぬわけにはいかんな。目的を外されても笑顔を崩せんのは、見ものかもしれん。他の可能性探索も当然だな。王家の影も使って、この町の呑み屋などにも調査を入れよう」

「うん、お願いします。じゃあそろそろ、改修始めますか」

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