第176話 娘親の苦悩
わざわざのお出迎え、ありがとうございます。
あ、今回は街主館行くのね。
前回は、直接ドック行ってトラブルに巻き込まれたからなぁ。
しかも今回は街主様の友人の娘一行のていで来てるから、街主様に挨拶に行かなきゃおかしいよね。
その擬装のために、ノーラとリーナはドレス。私とカレンはメイド服装備なんだもん。
貴族用の箱馬車じゃないけど、荷台は箱型だし、外装も石英コーティングでニス塗りのような仕様。
馬無しで進むし、ガイが御者っぽく運転してるから、下級貴族のご令嬢一行くらいには見えるかな。
街主館に着いた私たちは、客間に通された。
……何で第二王子殿下とヘンドリックがいるの?
慌てて礼を執ろうとしたら、殿下に機先を制された。
「儀礼はよしてくれ。其方たちは娘の友人で、なおかつ娘の師でもあるのだ。しかも今回は、私の願いを聞いて船の改修に来てくれたのだから、こちらが頭を下げねばならん立場だ」
「いや、王族がほいほい頭下げちゃまずいでしょ」
「公式の場ではな。娘と仲良くしてくれて、貴重な技術を授けてもくれ、今回の改修にまで来てくれた。ありがとう、感謝する」
「あ、はい。感謝はいただきましたから、頭上げてよ。友達の親に頭下げられるとか、いたたまれなくなるから」
「承知した。リーナ、良い友人を持ったな」
「はい、お父様。これもお父様がわたくしの辺境行きをお許しくださったおかげです。お父様、大好き!」
ソファーに座った殿下に駆け寄り、飛び込むように抱き着くリーナ。
「ぐはっ!……だ、誰だ、我が娘にこのように危険な行為を教えたのは!? 一瞬気が遠くなったぞ!」
「辺境の町では、ごく当たり前に子どもたちがやっていましたわ。親子ともすごく幸せそうな表情で、うらやましかったのです」
「そ、そうか。……おい、ヘンドリック。そのにやにやした笑みは止めろ」
「失礼いたしました。ですが殿下。殿下のお顔もその…」
「あー、ゴホン。……すまぬ、顔が戻らん」
「カレンはいつごろまであれしてた?」
「えぇっと…。私は下の子の面倒見なきゃいけなかったから、記憶にないなぁ。あ、でも一番下の妹は、八歳だけどあんな感じよ。十歳の妹は、もうやってないわね」
「なん…だと…。この愛らしさが、無くなってしまうだと!?」
「王子様、リーナもいずれは嫁に行くんだから、今から覚悟しとかないと」
「ぐおぉぉぉ。なんだこの感情は!? 抑えきれんぞ!」
「あーあ。リーナ、お嫁に行くのは大変そうだねぇ」
「えー!? お父様、リーナの幸せを願ってくれないの?」
「ぐはっ!……ち、父は、父はぁ!!」
「おう、大ダメージ負ってる。娘ラブな父親いじりはこのくらいにして、そろそろ話し進めない?」
「…もう少しだけ待ってくれ。瞬時に気持ちを切り替えるのは得意なはずなのに、なぜかうまく切り替えができん」
娘に大好きと言われて抱き着かれる。
父親として最上級の幸せの後に訪れた『いつかは嫁に行く』発言。
上げて落とされちゃったから、ダメージでかいんだね。
しばらくお茶飲んで待ってたら、ようやく復活したみたい。
「すまぬ、待たせた。今回は外輪船改修一隻、新造船への推進器取り付け三隻をドックで行ってもらいたい。改めての確認になるが、良いだろうか?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、みんなに推進機づくりや取り付けに慣れてほしいから、私は指導役になるつもりだよ」
「は? では誰が実際に作業するのだ?」
「だから私以外」
「……エレオノーラ嬢だけでなく?」
「そう、リーナとカレンもね」
「…リーナ、もう魔道具の作成や取り付けができるのか?」
「はい、お父様。ヒナタほど手早くはありませんが、多分大丈夫です」
「…北砦に行ってから、まだ一か月ほどではないか。しかもメイドのはずのカレンまでだと!?」
「わたくしはノーラとカレンから、講師となるための予行演習として教わりました。こちらに来た箱馬車の改造も皆で行ったので、一応実習済ですわ」
「………ヒナタ。早すぎる上に予定外の人物が増えておるぞ」
「早くなったのはリーナが頑張ったから。カレンは子どもにものを教える素養が高い上にモラルもしっかりしてるから、ノーラとリーナの補助をしてもらおうと思ったの」
「…リーナ、よくぞ頑張った。私は一か月ではレベル上げ程度で、リーナは魔道具技師見習いの一期生と共に技術を習得していくのだと考えていた。それが、すでに複数の講師養成と実作業可能な技術者の育成まで手掛けていたとは…。皆の献身に感謝する」
第二王子、また深々と頭下げてるし。
ほらぁ、ノーラとカレンが慌ててるじゃん。
今回は私だけへの感謝じゃないから、ちょっと気楽。
でも二人がパニクりそうだから、そろそろ頭上げてよ。
「今回はリーナ一人だったしリーナが頑張ったから一か月で何とかなったけど、生徒増えたらこんなペースは無理だからね」
「そうであろうな。…ヘンドリック、何をクネクネしておる?」
「な、なぜ、なぜ私は子どもではないのでしょう…」
「言うな、私も同じ思いだ。我々は、子供たちが学んで動きやすいように差配することしかできんのだ」
「ぐぅうぅぅ!……ぎ、御意にございますぅぅぅ」
ヘンドリック、よっぽど魔道具作りたかったみたい。
まさに血涙が似合う形相してるよ。
ヘンドリックの顔が大変なことになってるけど、お話済んだのでドックに移動です。
私たちは乗って来た箱車で、王子様やヘンドリック、街主様は護衛付きの箱馬車の予定だったのに、なぜか王子様もヘンドリックもこっちに乗ってる。
ヘンドリックなんて、御者席で推進器操るガイの横にへばり付いてるし。
ガイは鬱陶しそうだけど、宮廷魔導士だからと我慢してるみたいだね。
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