第175話 再び港町へ2/2
「…みんなありがとう。おかしいと感じてても私の出自は追及しないで付き合ってくれるから、私はここにいられるの」
「わたくし、王都で先読みや牽制の話術教わったけど、ここまで高度じゃなかったわ。感謝された上に居場所認定されては、絶対に追及なんてできないわよ」
「あ、ごめん。感謝を伝えたかっただけなんだけど、聞かないでっていう牽制になっちゃってたね」
「無意識なんだ…。まあ、これがヒナタよね」
「それな! 『ヒナタだから』で納得しちまうよな!」
「「「うんうん」」」
「あれ? 私の名前、なんか他の意味に使われてない? 固有名詞のはずなのに、なんか形容詞っぽく聞こえるよ?」
「「「「…」」」」
く、後ろ振り向いたら、みんなに黙って目を逸らされた!
私以外、みんなそう思ってるの? 私の名前は『日の当たる暖かな場所』って意味だから!!
一人ぶうたれてたら、海が見えてきた。
ずっと森上空を南下してきたから、そろそろ東に針路取らなきゃ。
「ねえヒナタ、あのおっきな青いの、何?」
ああ、ノーラは海見るの初めてだよね。カレンも初めてかも。
水って透明なのに海は青く見えるし、広すぎてびっくりだよね。
「あれが海なの。でっかい塩水の水たまりで、多分陸地より広いから」
「水なのに、なんで青く見えるの?」
「えっとねえ…。ノーラは虹って見たことある?」
「え? うん、初めて見た時はびっくりした。空に色の橋が架かってるんだもん」
「あれって太陽の光が雨なんかの水滴に反射して見えてるんだけど、反射する時に色によって反射する角度が少しだけ違うから色が分かれて見えるんだよ。つまり、太陽の光にはいろんな色が含まれてるってことね」
「…光に色が付いてるの?」
「うん。ランプとかだと、オレンジ色っぽいでしょ? あれは青系統の光が少ないからなの」
「あ、ちょっとわかったかも。…あれ? でもそれだったら、空気もオレンジ色に見えなきゃおかしくない?」
「空気は光を反射しないからね。色ってね、光が目に入らなきゃ見えないんだよ。例えばトマトって赤く見えるよね。あれは光がトマトに当たって、赤い色を他の色よりたくさん反射して、それが目に入るから赤く見えるの」
「え? じゃあ赤色の物は、ほんとは赤を弾いちゃう色ってこと?」
「そうそう。私たちは、赤色を多く弾いちゃう色を赤色って呼んでるの。空気が見えないのは、反射する物が無いから全部の光を目じゃない方向に通しちゃってるの」
「…目って、そんな風に物を見てたんだ。ちょっとびっくり」
「私もこのこと知った時、赤い色は、ほんとは赤が嫌いな色なんだって思った。あ、かなり脱線してる。えっと、水ってね、ほんの少しだけ青を反射するものなの。だから海みたいに水が多くなると、青の反射が多くなって青く見えるの」
「なあ、その説明だと、反射しなかった他の色はどこ行くんだ?」
「吸収や透過。水も赤や緑系統の光を吸収たり透過しちゃって、青だけ少し反射しちゃうから青く見えるの」
「吸収って、物が大きくなるのか?」
「大きさが増えるんじゃなくて熱に変換されるの。太陽の光が当たると暖かいのは、反射せずに吸収した光が熱になってるから。陽が当たると物が温かくなるのはそのせいなの。黒色なんてほとんどの光を吸収しちゃうから、他の色より温度の上昇が早いよ」
「ああ! 日なたに置いてた鉄なべが熱くなるのはそのせいか!」
「そうよ。『ひなた』は偉大なのよ。だから私の名前を違う意味に使わないで!」
「お、おう。分かった」
「ヒナタのご両親って、名付けのセンスが素晴らしいですわ。ヒナタといると、なんだか心までぽかぽかするもの!」
「「「わかる!!」」」
「あ、うん。そういう意味で名付けたらしいんだけど、全力で肯定されるとなんか恥ずかしいっす」
「うふふ。やはりヒナタは『ひなた』です」
「「「異議なし!!」」」
「ぎゃー、名誉挽回したはずなのに、結局元に戻った気がする!」
ぐぬぬ。最初とは違って本来の『ひなた』の意味にはなったと思うけど、やっぱり形容詞的に使われてる気がする。
本来の意味で捉えられるのは嬉しいんだけど、全力で肯定されるとめっちゃ恥ずかしい。
私、褒め殺し耐性無いから!!
みんなに生暖かい目でニマニマ見られるから、なかなか顔の熱が引かなかったけど、なんとか港町の西門到着したよ。
着陸したら、前回街主様と一緒にいた兵団長さんが私たちを出迎えてくれた。
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