第173話 魔道具技師、講師養成3/3

起きた。

時刻は午前七時、こっち基準では完全に寝坊です。

気付いたらカレンだけいないし。


カレン、一階の厨房で動き回ってるな。

支度して手伝いに行こう。

みんな、起きてー。


身支度整えて厨房行ったら、もう朝食できてたよ。

カレン、ごめんね。


朝食はスクランブルエッグ、炒めベーコン、野菜スープ、サラダ、パン。

みんなでカレンに謝りながら、ありがたくいただきました。


朝食済んだらまずはリーナのレベル上げ。

魔獣結構溜まってたから、リーナ、レベル9になったよ。


このあたりは数か月ほど討伐されてないみたいだから、私が西砦に来た頃みたいに、徐々に魔獣減ってくと思う。

こっちの目的はレベル上げだけど、魔獣の間引きになってちょうどいいかも。


レベル上げ済んだら、カレンによるリーナの指導。

今日も魔法訓練だけど、今日からは動く的当ても追加。

リーナ、落ち込まないで。最初は当たらないのが当然だから。


こうして始まった四人の共同生活。

リーナのレベルを上げつつ、カレンには魔法陣の作成指導。

ノーラには魔道具の筐体づくりと組み込みを、殿下から依頼された推進器づくりで実習。

ミスリル足りなくなったら、みんなと廃坑で採掘。

日中は、たまにリーナの飛行訓練がてら私のおうちへ。

そして森内で魔獣討伐訓練。

週一で町まで出てお買い物。

一か月が過ぎたころにはリーナもレベル12になり、魔道具作れるようになってた。


「うん、リーナの魔道具作りも安定してきたから、そろそろ魔道具技師見習いを受け入れてもいいかも」

「リーナってすごいよね。私たち、一か月じゃここまでできなかったもん。もう、完全に追いつかれちゃった」

「ノーラもカレンも他の勉強しながら仕事もしてたんでしょ? わたくしは集中してこれだけを教わってるから早かっただけだよ。それに、わたくしはまだ、みんなみたいには戦えないわ」

「戦いについては慣れよね。それでもヒナタには勝てる気がしないけど」

「私はレベルでごり押ししてるからね。同じレベルなら、魔素感知に優れてるノーラには勝てないよ」

「それを言ったらレベルの低い私が最弱じゃない。飛ぶ距離や速度も、一番少ないし」

「カレンは年齢的に不利だよね。でもさ、カレンはもうガイより強いんだよ?」

「それは…なんだか申し訳ないわ。ガイや正規兵のみんなは、私なんかよりよっぽど危険な目に遭いながら頑張ってきたんだから」

「それはわたくしもよ。低レベルで剣や槍だけで魔物を倒すなんて、恐ろしくてできないわ」

「そうよね。正規兵以上のみんなって、精神的な覚悟がすごいと思うの。話してると、自分がいかに子供かって、思い知るんだよ」

「みんなちゃんと分かってるじゃん。強さはレベルや魔力制御だけじゃなくて、精神面がかなり重要なのよ。正規兵さんたちって、町を守るためなら平気で魔物の群れに突っ込んで行きそうだもん。それこそが、兵士としての覚悟なんだと思う」

「…わたくし、王族教育で兵を死なせる覚悟を持てって教えられたの。夜の森での魔物討伐を経験して、初めてその意味が分かったわ。わたくしにはまだ命令権が無いからいいけど、お父様たちはあんな怖い場所に兵を送る権利、…いえ、義務を負っているのね」

「それはごめんなさい。いっぱい怖い思いさせちゃったよね」

「いいえ。貴族や王族は、あの怖さを知らなきゃいけないのよ。わたくしなんて、みんなに守ってもらいながらだから、かなりぬるい経験だったと思うの。それでも自分が王都でいかに甘やかされてたのかは理解できたわ」

「ああ、ヒナタが狙ってたのはこれなのね。私も改めて攻撃魔法を扱う覚悟できたから」

「ごめんなさい。怖いのは分かってたんだけど、どうしても自分が手に入れた力の怖さを知ってほしくて無茶しました」

「必要なことだったと思うよ。一般人を殺す魔物を討伐できるってことは、自分が魔物より危険な存在になるってことよ。私には貴族や王族の義務は無いけど、危険な力を手に入れた者として、自分を律する義務はしっかり理解できたから」

「…王都では平気で剣を抜く貴族を見かけることも多いの。あの人たちは、力を持つことの意味を理解できていないのね」

「私たちはこれから魔道具技師を育てるためにレベルという力を他者に与えることになるわ。それは人を簡単に殺せる力を与えるってことでもあるのね。とんでもなく責任重大じゃない。ヒナタ、ひょっとしてこの責任を理解するまでが講習?」

「…うん。私が作った魔法や魔道具は、悪用されたらとんでもないことになる代物なの。最初は自分を守るためだけに使うつもりだったんだけど、それじゃあ魔物の脅威が無くならないみたいだから」

「西砦で、私に攻撃魔法を教えるのをためらったのがよくわかったよ」

「…あの、なぜわたくしに教えるのはためらわなかったの?」

「第二王子殿下なら、絶対娘に力の怖さを教えてると思って。実際に会って話したら間違いなさそうだったから、後は実感してもらうだけだったの」

「…実感しすぎよ。政略結婚だと嫁入りした先の家に従う必要があって領民にすら貢献できるかどうか分からないから、幅広く確実に民に貢献できる技術を求めたの。で、貰った技術が人類の未来を左右するような巨大な力だった」

「本当は大人たちにやってもらいたかったんだけど、大人たちじゃレベル上がらないから無理だったの。当然大人たちに責任は持ってもらうけど、技術習得は子供じゃなきゃできない。重荷押し付けちゃってごめんなさい」

「謝らなくていいわよ。わたくしは王族だから、背負わなきゃいけない立場なの」

「私も領主の娘として背負うべきものよね。平民になったつもりでいたけど、みんなのためになる事をできるなら、この義務は進んで受けなきゃ」

「…あのぉ、そうすると平民の私はどうなるの?」

「……ごめんなさい。カレンはお姉ちゃんだから、甘えました」

「甘えっぷりがとんでもない!」

「でも、わたくしやノーラのお姉ちゃんだから、一緒に背負ってくれるのよね? お願い!」

「…王族怖い。私、平民なのに…」

「多分平民じゃなくなるはずよ。こんな大きな功績、絶対お父様が受爵させると思う」

「ちょっ、嘘でしょ!?」

「「「…」」」

「いやーっ! 嘘だと言ってよ!!」

「「「ごめんなさい」」」

「そんなぁ…」


その後、泣きそうになったカレンをみんな慰めたんだけど、なかなか復活してくれなくて大変だった。

まあ、だまし討ちみたいな形で大きな責任押し付けちゃったから、悪いのは私なんだよね。


でも、十二歳で人にものを教える上手さを持ってるカレンは、今後の魔道具技師育成には不可欠な存在なの。

しかも頑張り屋で忍耐強くて面倒見が良く、さらにしっかりした善悪の判断基準を持ってる子なんて、そうはいない。

ノーラやリーナの誤判断時のストッパーとしての存在価値まである。


カレンはすでに力を持っちゃってる状態だけど、おそらく間違った力の使い方はしないと思う。

でも、講師になってほしいのは私の希望であって、カレンが従わなきゃいけない理由なんてない。

あくまでカレン自身の判断が優先される話だ。


だから私が思ってることを正直に話して、ひたすらお願いしました。

途中からはノーラやリーナも頭を下げて頼みだしたもんだから、王族に頭を下げさせてしまったと、カレンはパニックになってたよ。

結局、冷静になってからよく考えてもらおうと、返答は保留になりました。

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