第169話 魔法戦闘
町に戻って入れ替えの見習いさんを兵舎に下した時、先に戻ってたノーラとカレンが正規兵に混じって乱戦の訓練してた。
その光景を見た王子様とヘンドリック、唖然としてた。
私が西砦で見せたのは、魔人対見習いさんの戦い。
でもこっちは能力制限が緩い対人戦だから、かなり何でもありだ。
一応木剣と木盾を使ってるけど、木剣の速さは常に風切り音付き。レベルが低い人には切っ先なんて見えないし、当たれば大けが確実。
なのに、攻撃された側は軽く剣や盾を当てただけで攻撃を流している。
そして盾を迂回して飛ぶ水球に、死角からの攻撃を全員が見もせず避ける。
踏み込もうとする足元には土が盛り上がったり穴が開いたりして攻撃を阻害し、それをジャンプで避けた兵に水球が襲い掛かる。
しかしジャンプした兵も、空中で真横に移動して水球を躱す。
「なんなのだこの戦闘は…」
「これは対人戦闘訓練です。弱い魔法ありなんで、至近距離の魔法をお互いが強引に避けて、おかしな見た目になります」
「……弱い?」
「相手の身体や武器を操るのは禁止です。そうしないとノーラの圧勝になりますから」
「相手を…操るだと!?」
「はい。踏み込もうとする足が勝手に引っ込んだり、自分が持ってる剣が自分を斬ろうとしてきます」
「そんなもの戦いにはならんではないか!?」
「ええ。訓練にならないんで、ノーラには制限つけてもらってます」
「私も見せてもらいましたが、あれはもはやコントにしか見えません。娘の前で、兵がおかしな踊りを踊っているようでした」
「…数か月前に初めて会ったが、娘御はその時からそんなことができたのか?」
「いいえ。屋敷内をゆっくり歩くのがやっとでした」
「……もう、言葉が出ん」
代官屋敷に戻ってみんなで昼食。
ここで、王子様がノーラの瞼が開いていることに気付いた。
「ペンガス、娘御が目を開いておるが、その…」
「はい、見えております。ヒナタ嬢が治してくださいました」
「ヒナタは人の治療までできるのか?」
「娘から詳しく聞きましたが、娘の目は前部のレンズのような部分が生まれつき曇っていただけらしいのです。魔法で透明にしてもらったようですが、患者が術者を信頼して、術者の魔法を受け入れねば治療はできないようです」
「他者の魔法を受け入れるか。自分の身体が他者に改変されるのを容認するなど、相当な信頼関係が無ければ無理だな」
「暗闇の中で縮こまっていた娘に希望を与え、魔法を与え、視界まで与え、さらには魔人を凌駕する身体能力まで与えてしまう存在です。娘にとってヒナタ嬢は、天使か女神のごとき信頼できる存在なのでしょう」
「そうやもしれん。今日の視察で昨日ヒナタが言っておったことを実感した。あれはもう、愚かな人間を幸せへと導く天使のごとき存在だ。なれど畏怖より親愛の情を強く感じ、無意識に我が娘扱いしそうになる。不思議な少女よ」
「一辺の曇りなく、賛同いたします」
王子様と領主様がこっちをちらちら見ながら話し込んでるけど、こっちはヘンドリックの質問攻めで気にする余裕がない。
ヘンドリックは王子様の横に置いとかないと、質問攻撃始めるんだな。
午後から北砦だから大変そうな予感…。
食事済んだら、ツアーメンバー入れ替えて北砦に出発。
今度は見習いさんの代わりに、カタリーナ、ノーラ、カレン、ガイが加わってる。
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