第119話 やらかしたはずなのに……
うん、朝来た。
今日の朝食はハムサンドとスクランブルエッグ、サラダ、コーヒー。
よし、砦に謝りに行こう。
砦着いたら、中庭でガイが手を振ってた。
おう、どうやらもうやらかしの連絡来てるみたい。
一生懸命謝ろう。
「ガイ、おはよう。ちょっと話が――」
「ヒナタ、おはよう。俺も話あるから執務室行くぞ」
「あ、うん、分かった」
ありゃ、他の兵士さんに聞かせられない話みたい。
いっぱい叱られそうな予感…。
執務室に移動して、ドアに鍵掛けて内緒話。
「昨日は大変だったみたいだな。大丈夫か?」
「えっと、ごめんなさい。いっぱい迷惑かけちゃった」
「は? なんだそりゃ? 迷惑かけたのはこっちだぞ」
「…東門に出た魔獣、あれ、私があそこに誘導したの」
「あー、やっぱりか。親父からの手紙に、多分そうじゃないかって書かれてた。片が付くまで町に来ない方がいいから、お礼言っておいてくれってさ」
「私、勝手に魔獣引き連れて人を襲わせたんだよ?」
「そういう言い方すると悪く聞こえるが、宰相が差し向けた兵たちを重犯罪者にできて、こっちから責任追及できるようになったんだ。結果は上々だろう?」
「重犯罪?」
「ああ、言ってなかったか。この国の兵士や騎士には、魔物から一般人を守る責務がある。魔物と戦わずに逃げただけじゃなく、町に魔物を引き連れてくるなんて、敵前逃亡と被害誘発の完全な重犯罪なんだ」
「でも、いっぱい人が死んじゃったでしょう? 私が殺したも同然だよ」
「はっ! あれはあいつらの自業自得だ。魔物圏最前線じゃ、魔物を引き寄せないために三十人以上の野外での団体行動は認められてないぞ。魔物圏の森近くで二百人も固まってるなんて、近くにいる人を危険にさらす他者を巻き込んだ自殺行為だ。親父や兵たち、あいつらの非常識な行動にカンカンだぞ」
「じゃあ私も叱られないと。だって町の近くに魔獣引っ張って来たから」
「どうせヒナタのことだ。町には被害出ないようにしてたんだろ? それ以前に、二百対三十で逃げるって何だよ!? 相手は魔人じゃなくて魔獣だぞ! あいつらが魔獣引き連れて逃げてこなけりゃ、町は襲われなかったはずだ! それに、ヒナタは物見塔の屋根で破壊矢構えてたらしいじゃないか」
「あ、ばれてた」
「兵たちは魔素感知鍛えるのも訓練に取り入れてある。屋根の上なら感知圏内だ」
「そうだよね。すぐ下に兵士さんいたもんね」
「まあそんな訳だから、ヒナタは咎無しどころか、最高のタイミングでこちらに非がない形で阿呆どもに現実をわからせた立役者扱いだ。親父なんて、ヒナタをべた褒めだぞ」
「うーん、でもこの国の兵士を故意に死なせちゃってるからなぁ…」
「魔物圏最前線での魔物に関する規律違反は、もれなく十年間の魔物最前線送りな。十年間も最前線で生き延びるやつなんてほとんどいねえから、実質は死罪みたいなもんだ。民を守るための兵士が規律破って民を危険に晒そうとするなんて、魔物の仲間かよ!?」
「…ガイ、結構怒ってる?」
「ああ。同僚だと思ってた奴にこっぴどく裏切られた気分だぜ。ヒナタはあんな奴らとは正反対なんだぞ。檻罠、破壊矢、戦い方、魔道具、魔力球、魔核浄化、魔人討伐。兵士や騎士だけじゃなく、お偉い学者にもできねえことやってんだ。誇ってくれよ」
「……ありがとう。少し気が楽になった」
「少しかよ!…まあいいや。あと報告な。その魔物の仲間ども、やっぱりヒナタを狙ってたぞ。全員魔の森に放り出すって言ったら、ペラペラしゃべりだしたそうだ。どうせ後で魔物最前線に送られるのに、そんなことすら知らねえみたいだ」
「やっぱりかぁ…。辺境と中央って、常識違いすぎるよ。辺境のおかげで中央があるのに、中央の方が上だと勘違いしてるよね」
「はっはっは、まさにその通りだな。今回の件、親父がご領主に頼んで宰相を糾弾するつもりだぞ。宰相の命を受けた兵士が、魔物最前線での最低限のルールすら知らねえで食料の一大生産地を危険に晒した重犯罪者だ。確実に責任問題だな」
「おお、一矢報いれるんだね」
「一矢どころか、辺境の魔物討伐兵と中央の兵を入れ替えろって提案するらしい。中央の奴ら、大慌てするぞ」
「なるほど。入れ替えを嫌がる人たちは、発端となった宰相を責めるわけだ。宰相失脚するかもね」
「ああ、そのための提案らしい。実際には入れ替えなんて無理だから、兵の教育や中央貴族の教育への口出しを、譲歩の条件にするみたいだ」
「ほんとだ、一矢どころじゃないね」
「だから親父は大喜びなわけだ。あいつらが重犯罪を犯すきっかけを作ってくれたヒナタは、親父の中じゃ英雄扱いだぞ」
「いや、ちょっと待ってよ。犯罪まがいのことしたのに英雄って…」
「だから犯罪性なんて無えんだって。対魔物最前線での兵士規約無視して魔獣を寄せて、戦いもせずに魔獣を町まで引き連れて来やがった。これが今回の事件の公式発表だ。だいたい一人で森の中を飛んで魔獣三十匹も引っ張って来ましたなんて、誰が信じるかよ。しかも立証する証拠皆無じゃねえか」
「だって、ガイは私がそれできるって知ってるじゃん」
「知らねえよ。見たこと無えからな」
「…」
まいったな。私がやったことで死人出てるのに、まるで『あんな奴らは死んだ方がまし』みたいな捉え方されてる。
裏切者で魔物の仲間扱いまでしちゃってるし。
兵士さんたちの仕事増やしたのも『中央を懲らしめられる』という利益の大きさに、全く問題にされてない。
これって、日本での常識とこちらでの常識がかなり違うってことなのかな?
郷に入りては郷に従え? 外国行ったら、現地の法律や常識に従えってこと?
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