第117話 魔獣トレイン&なすり付け

代官の執務室を辞して、私は兵士さんに西門まで送ってもらって飛び立ちました。

さて、頑張って森で魔獣トレインするぞ。


………

……


私は今、町から見て北東の森上空にいます。

足元の森には、三十匹以上のオオ魔とクマ魔。

こいつらは飛行能力無いから、足元でガウガウ言ってます。

森の中を飛びまわって魔獣を引き連れ、やっとここまで来たんだよ。

でも、ネズ魔・イタ魔・ウサ魔は、移動速度違いすぎて脱落しました。


今は魔法で、特定方向の音を増幅して盗み聞きしてます。

1kmほど離れた街道では、代官と兵団の指揮官らしき男の話が始まってます。


「あなたがこの集団の指揮官ですか? このように武装した集団を魔物圏最前線での兵士規範を無視して引き連れ、いったい何の御用ですかな?」

「そちらの兵から聞いておらんのか。凶悪犯の捕縛のためだと言ったはずだぞ!」

「それは異なことを申されますな。町内の捕縛権は代官である私が持っています。ご領主様のご命令が無い以上、あなた方を町に入れるいわれはありませんな」

「ふん、これを見よ。宰相の命令書だ」

「そういった書類は、一旦領都にてご領主様が真偽を確認したのちに、私に直筆の指示書を出す手はずです。ご領主様の指示書をお示しください」

「緊急事態なのだ! 犯人に逃げられたらどう責任を取るつもりだ!?」

「責任は貴殿が取ればよろしかろう。兵士規範やルールを守らずに行動しておるのですから。代官とは、あくまでご領主様の指示に従って町を治めるもの。ご領主様の指示なくば、貴殿らを町に入れるわけにはいきませんな。しかも今は、あなた方のせいで魔物襲撃警報が出ておる最中。断じて門を開けるわけにはいきません」

「貴様! 宰相閣下の命を無視するか!? 反逆罪だぞ!?」

「その書類が宰相閣下の物とは確定しておりません。どうぞご領主様の指示書をお持ちください。さあ、魔獣を町に寄せぬうちに、とっととお帰りを」

「いい加減にしろ!! 我らは宰相閣下の命に従い、武力行使しても良いのだぞ!?」

「ほう。では貴殿らは、真偽も分からぬ書類をかざして町を襲う野盗ということになりますな」

「貴様! 宰相閣下の命を受けた我らを野盗呼ばわりとは、無礼であるぞ!! こうなっては仕方ない。貴様ら全員――」


カンカンカンカン、カンカンカンカン、カンカンカンカン――

城壁の四隅にある物見台、その北東側から突然響き渡る警鐘の音。


「魔獣が出たぞ! 門を守れ!!」


代官が大声で指示を出すと同時に、引き連れていた兵と共に東門めがけて走り出してる。

さすが最前線の兵士たち。行動が素早い。


でも、突然の事にどうしてよいか分からず、武装集団はその場に止まったままだ。

そこに勢いよく森から飛び出した魔獣の群れが襲い掛かった。


うそん、あれ、ほんとに戦闘集団なの?

魔獣の方見てるのに、武器すら構えてないよ。


この魔獣の集団、当然私がトレインしてきた魔獣たちです。

足元でガウガウ言ってた魔獣たちに、人間サイズの魔素を固めた透明なデコイを鼻先にぶらさげてその場に留めてたんだけど、代官の交渉が失敗に終わりかけたので、デコイを街道方向に動かしました。

当然釣られて走り出す魔獣たち。

後は魔獣が二百の人間に気が付いて、勝手に突っ込んで行きました。


しかし代官の交渉。あれ、首を賭けた言動だよね。

緊急事態だという指揮官に対し、あくまで通常のルールを持ち出して入町を拒否してた。

二百もの集団は魔物圏最前線の兵士規範に違反してるって言ってたけど、それもどこまで通用するか分かんないよね。

後で宰相の命令書が本物だって分かったら、窮地に立たされるのが目に見えてるのに。

代官、マジで命がけな気がする。


領主様からの連絡が何もないってことは、この集団は領都を迂回してここまで来たってことだよ。

だって領都周辺をにあんな集団が通ったら、絶対領主様に目的を詮議されて連絡が来るはずだから。

つまり宰相の命令書が本物であっても、領主様に知られないうちにここに来たかったってこと。

しかも凶悪犯の捕縛って、普通なら早馬出して町の兵に捕縛依頼した方が、歩兵二百で追いかけるよりよっぽど早い。


はぁ…目的は私だよなぁ。あ、今じゃノーラも魔法陣作れるから、ノーラも危ないな。

私は理不尽押し付けようとする奴らには徹底抗戦って決めてるから、今回の魔獣トレインと擦り付けも、人死に覚悟の上でやりました。

これで犯罪者扱いされるなら、また他の国に移住すればいい。


第二王子はそういったことを危惧して協力体制を敷いたんだから、今回の行動は王族の意向を無視してるってことだよ。

万一、いや億が一ほんとに凶悪犯の捕縛に来た集団だとしたら、その時は犯罪者として逃亡しよう。

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