第116話 怪しい一団

箱に座ったまま飛行して監視塔に着いたら、ガイが砦行きの準備してた。

今から檻荷車で砦に向かうんだって。


こっそり廃坑魔人全滅と魔核持って来たって言ったら、代官に直接渡してほしいそうです。

間食用のハンバーガー一個くれて、檻荷車の上に座って出発していきました。

…安全確保のための檻なのに、なんでいつも上に座ってるんだろう?


見習いさんが手押しの小さい荷車持ってきてくれたので、魔核の入った箱乗っけて、その上に座ってハンバーガー食べながら移動です。

見た目は荷車引く見習いさんが大変そうだけど、浮く直前まで重量軽くしてるから楽々進めるよ。


荷車に乗っかったまま悠々と町中を進み、代官屋敷到着。

見習いさんと別れ、執事のエクムントおじいちゃんに先導されて代官執務室に到着。

魔核入れた箱が重いので、浮かせた箱に腰かけての移動です。


あ、代官様だけじゃなく、ディートリヒもいた。

エクムントおじいちゃん、代官様に合図されて部屋を出たけど、魔素感知ではドアの前に立ってる。

声が聞こえそうな場所には他の人の反応無いから、これなら内緒話できるね。


「ヒナタ嬢、ノーラの目の治療、心から感謝する。私にできることなら何でも言ってほしいが、ガイからは感謝の言葉だけにしろと言われた。正直なところ、それでは対価として見合わないが、本当にいいのかね?」

「私がほしい対価は、一回だけ感謝の言葉を貰うことなの。だからそれでお願いします」

「承知した。かなり心苦しいが、それが対価なら納得しよう。ではもう一つの感謝を。魔人討伐への協力、というかヒナタがほとんど討伐したらしいが、こちらは報奨金を受け取ってもらうぞ。そうしなければ、公人として信賞必罰の原則に反してしまう」

「あー、はい分かりました。その件で追加報告です。廃坑内を全部確認したけど、もう魔人はいなかったよ」


言いながら、魔核の入った箱の蓋をカットして開け、中身を見せた。


「……なんて量だ。この量をほとんど一人で討伐するなど、俺には絶対無理だ」

「この領の全兵力でも無理だ。こんな量の魔人が廃坑にいたなど、鳥肌が抑えられん。民に被害が出ぬうちに討伐できて、本当に良かった。…ところで、端の方に入っているのはミスリルか?」

「うん。採掘できるかどうかも試してみたから」

「…昨日の今日で、もうそこまで確認してくれたか。ありがたい、感謝する」

「どういたしまして。この魔核、浄化で兵士さんをレベルアップする時には、一つで五百ネズ魔くらいで計算してね」

「了解だ。だが浄化によるレベルアップは極秘事項だ。しかもこの魔核は、王家がやらかして押し付けられた廃坑の魔人の討伐証明にもなる。どうしたもんか…」

「そうだな。もったいないが、しばらくは秘匿するしかないだろうな」

「そうだよね。いざという時、代わりに討伐してやったっていう証拠だもんね。…んあ? なんか東から変な集団来るよ?」

「あ? 変なってどういうことだ?」

「二列縦隊で数は二百くらい。5kmくらい東を、この町に向かって徒歩の速度で進んでる」

「5kmも先の人が感知できるのか…」

「ディートリヒ、驚いておる場合ではないぞ。二列縦隊で進む二百人もの集団など、魔物最前線での兵士規範を無視した兵団くらいしかない。二百の集団など、魔物を呼び寄せかねん愚行だ。代官の私が通達を受けていないということは、ご領主様も知らぬということだ。下手をすると町を襲撃されるぞ!」

「襲撃!? 魔物討伐の最前線の町を!?」

「おそらく目当ては魔道具の製作者だ。第二王子殿下がお忍びでここから魔道具を持ち帰ったことなど、王族かごく一部の高官しか知らぬはず。ならば王都の業突く張りの誰かが、手柄欲しさに王都の兵を派遣した可能性が高い。そんな兵を町に入れたら、何をされるか分からんぞ!」

「親父の予想が当たってるとすると、王族か高官の命令書持ってるだろ? 町に入るななんて言えねえぞ?」

「むうぅぅ…」

「あの。とりあえず早馬出して、目的確認したら? あとご領主様にも確認の早馬を」

「そ、そうだな。ディートリヒ、すぐに手配を。あと、魔物襲撃の警報も出して、住民を町に避難させろ」

「了解!」


ディートリヒ、立てかけてあった剣を引っ掴んで、部屋を飛び出して行った。

部屋に残ったのは私と代官。


「あの、魔物襲撃の警報って?」

「ああ、この町は夜に町の周りまで魔獣が出て来ることが多い。夜明け前には森に戻っていくんだが、森に戻らずに物陰に隠れたままのハグレ魔獣がいるんだ。朝一番の兵の巡回で討伐するんだが、ハグレが多い時や強いハグレがいた時は、警鐘を鳴らして町の中に避難することにしてあるんだ」

「へー、さすが魔物討伐最前線。あ、じゃあ森の魔獣がこっちに向かって来る兵団に襲い掛かったら、ビビッて帰ってくれないかな?」

「それは望み薄だな。たとえ王都あたりでぬくぬくしている弱兵であったとしても、二百人もいればハグレ数匹くらいは始末できるだろう」

「ふーん、そっかぁ…。私、狙われそうだから森に引っ込んどくね」

「ああその方がいいな。ノーラも砦に避難させるかもしれんから、明日にでも砦に寄って欲しい」

「うん、分かった」

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