第113話 ノーラの目1/2
広い玄関ホールのドア付近に四人が倒れ伏すというシュールな状況から、お風呂を沸かすためにふよふよと空中を漂うことで脱した私。
いや、歩くことさえ億劫で、思わず魔法で移動しちゃっただけです。
そしたらノーラも真似してふよふよ。
ガイとカレンは根性で立ち上がってた。
まあ、みんなレベルアップしてるから体力的には問題ないから、動く気力さえあれば動けるんだよね。
お風呂場に移動してお湯水球(湯球か?)ぶち込んでお湯を張り、脱衣所でベクトル魔法で服脱いで、ふよふよ移動で浴槽にドボン。
思わず『くあ~!』とか声出ちゃったよ。
私と同じことして入ったノーラに、くすくす笑われてしまった。
カレンも、ちょっと遅れて入ってきた。
「あ~、ヒナタが思わず声出しちゃうのも分かる。すごく気持ちいい」
「そうね。なんだか身体にお湯がしみ込んで効いてるみたい」
「だよねぇ。寒い朝のお布団の中に似てるかも」
「それ分かる! 今朝カレンが起きるの分かったのに、思わずお布団に潜り込んじゃったもん」
「私も、いつもなら慣れてるからサッと起きられるのに、お布団出る時覚悟が要ったわ。あのお布団は、使用人の敵ね」
「敵って…。まあ気に入ってもらえたみたいでよかったよ」
「庶民は藁にシーツ掛けて毛布掛けて寝てるのよ。ノーラの掛布団でも羊毛なのよ。あんなに軽いのに羊毛よりあったかい布団なんて、まるでお姫様用のお布団みたい」
「あの掛布団、中身はガチョウの胸毛だよ。食肉用のガチョウ飼ってる家の四男さんが見習い兵の中にいたから、お金出して実家に集めてもらったの」
「帰ったらすぐ、私も注文する」
「ちゃんと洗ってから、ふんわりと乾燥させなきゃダメよ」
「わかった」
「ノーラ、やっと朝早く起きられるようになったのに、大丈夫?」
「……」
「まあ、早寝すれば大丈夫なんじゃ―――え、ノーラ、その目!」
「あ、ごめん。気が緩んでて思わず目を開けちゃった。気持ち悪かったよね」
「そうじゃなくて! お願い、もっと良く見せて!」
「え? 白い目なんて気持ち悪いでしょう?」
「全然よ。そうじゃなくて、ノーラって、ひょっとして明るさは感じられるんじゃない?」
「あ、うん。瞼開けると明るさは感じるよ。今も瞼開けて明かりの方見ると、ちゃんと明るくなるのは分かるよ」
「……ねえノーラ、ダメな可能性高いけど、もしかしたら目が見えるようになるかもしれない。だけどかなり痛いかも。ノーラはどうしたい?」
「そんなのやるに決まってるよ! 私も色を見てみたい!!」
「わかった。じゃあ瞼を開けて、こっち見て。痛かったら言ってね」
「うん」
ノーラの目、青い虹彩の輪郭が少しだけ見えて、瞳孔部分は真っ白で全然見えない。
多分先天性の白内障だと思う。
視神経や網膜に異常があるのと違って、水晶体が濁ってるだけなら魔法で何とかならないか?
おうちの窓ガラス作る時に、濁った石英を魔法で透明にすることはできた。
問題は相手が人体だから魔力抵抗があること。そして透明にするのにどれだけ痛みが発生するか分からないことだ。
お風呂場の照明を落とし、カレンに暗めの光球作ってもらって、ノーラの瞳を見ながらゆっくりと魔法発動。
最初は弱く、徐々に魔力を増やしながら、痛くないようにゆっくりと慎重に。
濁った石英ならもう透明になってるだけの魔力を注いでも、見た目は変化が無い。
ノーラも痛がってないから、これは魔力抵抗で私の魔法が無力化されちゃってる気がする。
ああ、ノーラはレベル15になったんだった。魔力抵抗高いのは当たり前だな。
さらに注ぐ魔力を増やしつつ、それでも慎重に魔法を発動し続ける。
……これは無理かなぁ。
ノーラに期待させちゃった分、申し訳なくなってきたぞ。
「いだだだだだ!」
「あ、ノーラごめん!」
ノーラ、目を瞑って手で押さえちゃった。
うわー、大失敗だ。ゆっくり魔力増やしてたつもりだったけど、さすがに魔力込めすぎたか。
「ノーラ、ほんとごめんなさい! 魔力注ぎすぎた」
「あ、うん、そうじゃなくて…。少し痛み治まって来たから大丈夫みたい。さっきはヒナタの魔力を私が弾いちゃってるみたいだったから、ヒナタの魔力を受け入れようとしたら急に痛みが来ちゃって」
「ほんとにごめんね。目、大丈夫?」
「うん、痛みは治まったよ。もう瞼も開けられ、ええーっ!! なにこれ!? なんかいつもと違う!!」
「ど、どうしよう!? 私、とんでもないことしちゃった!?」
「……ねえヒナタ。私、初めて魔素感知した時みたいに、ヒナタの輪郭が分かるんだけど、なんか変」
こっちを向いたノーラの右目、きれいな青い彩光と、黒い瞳孔がはっきりと見えた。
「…それ、目が見えてるんじゃない? カレン、少し明かり強めてくれる?」
「はい。…どうですかノーラ?」
「……うそ、これが見えるってことなの? これが色? 繊細に魔素感知した時以上に分かる。ヒナタの目、すごくきれい」
「え? あぁ、そっか。魔素感知じゃ瞳は見えないよね、色も判別できないし。私の瞳は緑、髪は薄い金髪ね」
「これが色なんだ。すごいなぁ……」
ノーラ、感動して泣いちゃったよ。
私はどうしていいのか分からずにオロオロしてたら、カレンがノーラを抱きしめてた。
そうか、こういうときはそうすればいいのか。
ノーラが私にお礼言いながら抱き着いてきたので、私も抱き返してあげた。
ノーラがある程度落ち着いたところでお風呂を上がった。
ちょっと長湯しすぎてのぼせそうだったからね。
お風呂出て私の私室に移動(お風呂の隣だからね)して、左目の治療。
今度は最初から私の魔法を受け入れてもらったから、魔力も少しで済んだし、痛みも少なかったみたい。
でもノーラ、極度の近視でした。
そりゃそうだよね、今まで目を使ったこと無かったんだから、水晶体引っ張って薄くする筋肉なんて、人生初使用だよね。
しかも初めて視界を得ちゃったもんだから、視界に酔いかけてた。
魔素感知は自分の周囲すべてを感じ取れるから、自分の位置を相対的に把握しやすいの。ゲームの三人称視点みたいな感じ。
でも目で見る視界は一方向だから、後ろ側の情報無くて脳が混乱するんだと思う。
それに初めて目を使うんだから、すぐに目が疲れて頭痛とかしそう。
普段は目を瞑ってて、徐々に目を開けてる時間を増やして慣れて行こうということになった。
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