第114話 ノーラの目2/2
お風呂で気力も回復し、ノーラの目が見えるようになったことでみんなの気分も上々。
お腹が空いたのでお弁当を食べようと、インナーバルコニーに移動。
カレンがガイを呼びに行ってくれたんだけど、ガイ、昼寝してたらしい。
「すまん。横になってるだけのつもりが、寝ちまってた。あのベッド、気持ち良すぎだぞ」
「あれ? ガイの使ったベッドは綿の掛布団なんだけど、普段使ってるのとそんなに違った?」
「あの分厚い下に敷いてある奴、うちじゃ使ってないぞ」
「ああスプリングマットレスか。あれ、中にいっぱいスプリング入れなきゃいけないから、作るの面倒なんだよね」
「俺が使った部屋って従者用の部屋だろ。なんで従者用にまでそんなもん使ってんだ?」
「いや~、物作り欲求が爆発した時にノリノリで作っちゃったから、加減忘れてたんだよ」
「……加減しねえとあんなもんが出来上がるのかよ」
「私たちが使ったベッドはもっとすごかったよ。掛布団に羽毛入ってて、軽いのにすごく温かかった」
「あれは使用人の敵です。起きるのに覚悟が必要になるお布団って、普及したらみんな寝坊助になるわよ」
「それほどか…。ん? ノーラ、どうした?」
「ねえ、トマトって何色?」
「ん? ああ弁当に入ってたのか。ほとんど赤で、中の種は白っぽいな」
「これが赤。きれい」
「……ノーラ、瞳の色って白じゃなかったか? 赤がきれいって、まさか……。うぉい!! ヒナタ、お前ぇ!?」
「ちょ、なんで私!?」
「こんなことできるのお前しかいねえよ!! でもマジなのかノーラ、ほんとに見えるのか?」
「うん、見えてるよ。ガイの瞳、私の瞳とおんなじ色だ」
「はあぁぁぁ………。ノーラ、よかったな」
「うん。でも目を使い始めたばっかりだから、まだ遠くは見えないんだ」
「…それって、使ってるうちに遠くが見えるようになるってことか?」
「そうらしいよ。ヒナタ、筋肉を鍛えるんだっけ?」
「そうそう、こんな感じ」
空中に水球作ってレンズにし、横に引っ張ってレンズを薄くします。
「…なあ、それだと遠くが見えねえ奴も、頑張って遠くを見続けたら見えるようになるってことか?」
「全員そうなるかは分かんないけど、近くばっかり見てて視力落ちちゃった人には効果あると思うよ」
「じゃあ反対は?」
「近くがぼやけるってこと? 年齢的にそうなった人は、難しいかも。お肌と一緒でレンズの弾力性が無くなってそうなるから、メガネが要るね」
「あ~、そうなのか。で、ノーラの場合はなんで見えるようになったんだ?」
「レンズが白く濁ってただけだから、魔法で透明にしてみたの」
「ああ、それで白く見えてたのか。でも魔法で透明にって、よくそんなこと思い付いたな」
「窓ガラス作ってる時に透明度低いのが結構出来ちゃってさ、それで透明にする魔法試してみたの」
「すげえな。ノーラの目は領主夫妻が高名な医者や治癒師を呼びまくっても治らなかったのに、こんな簡単に直しちまいやがった」
「ああ、それ多分レベルと信頼度だと思う。レベルがある程度無いと透明にする魔法自体が使えないし、人の身体は他者の魔法を無意識にはじいちゃうから、信頼して魔法を受け入れてもらわないと無理だから」
「そんな原因があったのか。でもノーラ、これから大変だな」
「え、どうして?」
「だって、まずは目がちゃんと使えるように訓練して、それから字の読み書き覚えなきゃだろ」
「あ…。それって大変?」
「おう。訓練は分からんが、きれいな字が書けるまで何度も書き直しさせられて、指が痛くなるからな」
「え~。私、見えるようになったの黙っておこうかな?」
「家族には報告しろよ。うちの養女になってもう貴族令嬢には戻らなくていいんだから、親には報告するべきだ」
「そう、だよね。またもみくちゃにされそうだけど、ちゃんと言わなきゃね」
「だな。で、ヒナタも覚悟しとけよ。領主夫妻、多分何としても礼言いに来るぞ」
「…私、もう町に行かない」
「食糧どうすんだ。多分監視塔に泊まり込んででもヒナタに会おうとするぞ。下手すりゃ魔獣討伐しながらここまで来ちまうかもしれねえ」
「……ノーラ、お礼を最小限にするのが治療費ってことにしてください」
「説得はするけど、どこまで抑えられるかは自信ないよ」
「やばい。あの人たち、ノーラが屋敷の中を歩けるようになっただけであれだった。ガイ、どうしたらいいの?」
「観念しろ。思い付きで治しちまったのはヒナタだ」
「…」
「ヒナタは本当に感謝されるのが苦手なのね」
「そうじゃないよ。『ありがとう』って言われるくらいならうれしいんだけど、それ以上になるとなんだか辛くなってくるんだよ」
「なるほど。ヒナタを追い詰めるには、お礼を言いまくればいいのか。俺や親父たちだけじゃなく、兵たちもヒナタに感謝してるから、今度みんなでお礼するぞ」
「ちょっ、絶対止めてよ!? そんなことしたら絶交だからね!!」
その後、必死にガイを止め、最後は脅しに近いお願いで何とか思いとどまらせた。
正直必死過ぎて、回復しかけた精神がまたすり減ってしまった。
私があからさまに疲れてたので、帰りは三人でいいからとフライトは免除された。
この二日で一気に増えた魔力を使いこなすため、ノーラが幌馬車操縦(?)して帰って行った。
三人を見送ってハタと気付いた。
領主夫妻のお礼、全然断れてない。
どうしよう……。
精神的に疲れ切ってるところに憂鬱な気分が重なって、この日は明るいうちから早寝してしまった。
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