第2話 現状把握

三年前、豪雨による地滑りで実家と両親を失い天涯孤独にはなってたけど、彼氏いない歴イコール年齢だったけど、友達少なかったけど、もうすぐ大好きなゲームソフトの発売日だったのに…。


追加された記憶には帰るための情報一切無いし、キャトった犯人の情報も全く無い。ちくせう。

まあ、五歳の幼女で身体の造りも地球人とは違うっぽいから、帰れても大変そうだけど…。


でもさ、現状もひどいよ。

この惑星、植え付けられた知識では、ゆっくりと人類絶滅に向かってるの。


二百年ほど前の魔道機械の発明により、一時はヨーロッパの近世くらいまで文明が発展したけど、この魔道機械がまずかった。

動力源とされたのは空気中の魔素。これ自体は問題なし。

でも、自然界の魔素を集めてエネルギーにするための魔素吸収装置、その魔法陣に欠陥があった。

吸収効率が悪いだけなら良かったが、吸収しきれなかった魔素を変質させ、空気中に取りこぼしてしまった。

この変質魔素濃度が一定以上になると、人や動物を魔人や魔獣と呼ばれる狂暴な魔物に変貌させ、さらに植物を異常増殖させてしまうものだったの。


魔物化した生物は額に魔核が出来、魔核の成長と共に細胞が魔素細胞へと置き換わり、完全な魔物になる。

魔物は濃い魔素を求めて人や動物を喰らい、徐々に強力になって魔法まで使えるようになる。


魔物は四肢が欠損しても他者を喰らって魔素で修復してしまうので、討伐には額の魔核を破壊するか、首を切断するしかない。

魔物は討伐されると魔核を残して空気中に大量の魔素を放出しながら、霧散するように消えてしまう。

この時放出される魔素は、正常な魔素。残った魔核は、変質魔素が固体化した物だ。


いいことが一つだけあるの。

討伐時に放出された正常な濃い魔素を浴びると、近くにいる人は力や魔法が強化されるらしい。

まるでゲームのレベルアップだ。


まあ、魔物も人や動物を襲って魔素を蓄えてレベルアップしてるっぽいので、どんどん強くなって人の手には負えなくなってくみたい。

魔物が増え続ければ空気中の変質魔素濃度も下がり続けるけど、安全な濃度になった時にはどれだけの魔物がいることやら…ダメじゃん。


こんな状況になったのは、魔物が発生してからも、原因となった変質魔素が長い間見逃され続けたから。

魔道機械は空気中から集めまくった魔素で大きな動力が得られたために、急速に各地に普及していった。

陸上・海上の交通手段だけでなく工場の動力にまで利用され、膨大な変質魔素を垂れ流した。


だけどこの変質魔素、正常な魔素より少し重かったために、正常な魔素より早く地中に吸収され、発生当初は気づかれなかった。

地中には龍脈という魔素のゆっくりとした流れがあって、変質魔素はこの流れに乗って、世界各地から大龍脈にどんどん集約されて行った。


変質魔素同士は集まりやすい性質も持っていたため、大龍脈のあちこちで濃度の高い塊を形成。

大龍脈は魔素の循環を担っているため、各地に噴出口がある。

普通の魔素は噴出口から吹き上げられて上空の空気の流れに乗って各地に拡散されて行くけど、変質魔素塊は上空まで届かずに拡散されないまま噴出口近くに落ちてくる。

そして落ちた先で動物を魔物化、植物を異常増殖させ、生物に影響を与えられなかった分は、また龍脈に戻るのだ。


大量消費大量汚染、おもいっきり公害やん。


魔道機械発明から約一世紀、地中で集約された変質魔素塊は、複数の大龍脈の噴出口から初めて地上に舞い戻った。

結果、あちこちで起こり始めた動物の魔物化、植物の異常増殖。


人類は当然原因を探ったが、中々原因にはたどり着けなかった。

変質魔素の発生場所と噴出場所が離れていたのも、原因究明を遅らせた。


今から三十年ほど前にやっと原因が解明できて魔素吸収装置が廃棄され、今では魔道機械を人の魔力で動かしてる。

たけど人の魔力量では大きな動力を得るには至らず、必要最低限の魔道機械を大勢の人でかろうじて動作させてるみたい。


これで変質魔素の追加発生は無くなったものの、大龍脈は変質魔素塊を多量に内包しているため、これからもランダムな噴出口から、ある程度定期的に変質魔素塊を放出していく。

放出された変質魔素塊は、その時の地表付近の風に流され、どの場所に落ちるかもわからない。


放出時期不明、放出される噴出口不明、落下地点不明、ただし噴出口からあまり遠くへは落ちない。

当然人類は噴出口から離れて暮らすようになった。


魔獣化した元動物は人や動物の魔素を求めて移動するため、変質魔素塊落下地点からはすぐに離れる。

そこに魔獣から逃げた動物たちが住み着き、変質魔素を多く含んで異常増殖した植物を草食・雑食小動物が食べて半魔獣化。

肉食動物が半魔獣化した草食・雑食小動物を食べ、蓄積した変質魔素により徐々に魔獣化。

捕食されなかった草食・雑食小動物も、変質した植物を食べ続け、いずれは魔獣化。

魔獣の発生は収まらない。


幸いと言っていいかは分からないが、変質魔素をため込める量が少ない5cm以下の動物や昆虫、魚類は魔物化しないらしい。

Gが魔物(魔虫?)化したりしたら、身の毛がよだつ。


人類が原因となった魔素吸収装置を廃棄したころには、増え続ける魔物に圧されまくり、人類の生存圏はかなり減少してた。

今では人類の生存圏はかつての半分ほどになり、大龍脈の噴出地点から離れた場所に城郭都市を築き、魔物が活発に動く夜には城郭都市内に引きこもって生活を送っているらしい。


人類は魔獣発生当初から魔獣を討伐していたが、魔獣が増えると動物は逃げ出すため、その地域は人にとって危険が多く実入りの少ない場所になってしまう。

そんな広大な森など、高額な防衛費をかける魅力は無い。

当然のごとく、辺境地域は放棄され続けている。


変質魔素は魔物化や植物の異常増殖以外には消費されず、残りは龍脈に戻るだけ。

正常な魔素は動植物の生命活動で空気中に放出されてるけど、変質魔素塊が無くなるまでには、一体どれほどかかるやら。

お先真っ暗やん。


そして私が今いる場所、森の中の城壁に囲まれた砦です。

大きな石積みの四角い城壁の四隅には、同じく石積みの物見塔。

城壁内には、やはり石造りの二階建ての館。

なんかフランスのゲドロン城に似てるな。

ここ、記憶では魔獣討伐の拠点のひとつってなってる。


人類は魔物出現当初、当然魔物を殲滅して平和を勝ち取ろうとした。

だけど当初は魔物発生の原因が分からず、討伐しても次から次へと湧いてくる魔物。

しかも魔物には矢や銃弾が効きにくく、魔力を纏わせた剣や槍での近接戦でしか討伐出来ない。

魔物は変質魔素による自己防御膜が強力で、この防御膜を突破できるだけの魔力を込めた武器でしか致命傷を与えられなかったのだ。

矢じりや弾丸では、手元を離れた段階から急速に込めた魔力が拡散してしまい、討伐対象に届くころには、中型以上の魔獣の防御膜を突破できないみたい。


そのうち討伐兵まで魔人化し始め、部隊の損耗率は激しく上昇した。

部隊が変質魔素塊の落下地点近くで行動したために兵が魔人化したのだが、魔人化の原因が判明するまでの間、兵の魔人化も各地で発生した。


増え続ける敵、減り続ける仲間、防衛しても利の薄い土地。

当初は人口という物量でごり押ししていた戦線も兵員減と共に徐々に後退し始め、この砦も変質魔素塊落下で急拡大した魔物の増殖で、数日前に放棄されたようだ。


ひどいよね。魔物の勢力圏内に五歳の幼女一人放り込んで、どうしろっていうのよ?

その辺の指示は、焼き付けられた記憶に全くないんだよ?

どうやって生きていくかも全くサポートなし。

辛うじてましなのは、魔物の勢力圏の拡大が急だったために砦の人員が町に緊急避難し、物資の大半がここに残されたままってことだけ。

つまり直近の衣食住は、なんとかなるっぽい。


しかし私をこんな状況に追いやった犯人、一体何がしたいんだ?

日本での記憶はそのままで現地の基礎知識を無理やり詰め込み、身体は五歳の幼女にして放棄された砦に一人放置。


一応衣食住があるってことは、私に生きて何かをさせたいんだとは思うけど、そうなると場所がおかしい。

城郭都市内とかにしてくれればはるかに生存確率高いのに、わざわざ魔物の勢力圏に味方もなく置き去り。しかも幼女にして。

この場所である意味と幼女にした理由が分からん。


これ、私への嫌がらせなの?

私って、キャトった犯人に恨まるる事でもしたの?

こんな異世界転生、ありなの?


まあ、現地の基礎知識詰め込んだって事は、完全な嫌がらせではないとは思うけど…。頭、死ぬほど痛くて胃液ぶちまけたけど。

魔獣の住処にならないように、退去する時に城壁の大扉は内側の閂と鉄製の落とし格子閉めていってくれたみたいだから、一応は安全…なのか?


………はぁ、これ以上考えても仕方ないな。

げろって地面のたうち回ったから着替えよう。

なんか簡素な子ども用チュニックとカーゴパンツっぽいの着てたけど、結構泥だらけになってるし。

砦内の物資漁ろう。

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