第20話:隠し武器

「こんな装備が!?」


 スカイルーラーについてそれなりに詳しいガランでさえもトーカのいう"ペリカンとやらは知らなかった。それもそのはず、公式で公開されてないどころか、本来こんなものはスカイルーラーに装備してはいけない。


「現状を打開できる手がないかって、システムの深層にもぐりこんだの。そしたらこれが見つかったのよ!

 この兵装は誘導兵器をジャックしたり、炸薬を暴発させたり出来る電磁兵器らしいよ。だから、今周りの飛んでるミサイルは全て私達の手の中よ」


 トーカが説明している間もジャックしたミサイル同士はぶつかる事なく、機体の周りを回っていた。


 仮にこんなものがレースで使用されれば誘導兵器や炸薬入りの武器が無効化されバランス崩壊もいいところである。つまり、この兵装はレースでは使えない、使ってはいけないのである。


 イージスペリカンの隠し兵装"ペリカン"これの起動で一番驚いていたのはガランでもトーカでもなくタートルのパイロットだった。


「そんな…何層ものプロテクトがあったはず…技術者連中でもこんな早くは…」


 タートルは"ペリカン"について知っているようだった。通信機ごしですら噛み締める音が聞こえた。


「何よりこの盾は!あいつが私を守るために!お前らが使うのは許せない!」


 声色は明確な怒りへと変化した。

 そして、ミサイルは使えないならとタートルは、全身を覆うミサイルポッド群の隙間からガトリングを2門露出させ、放った。誘導兵器や炸薬のない弾丸、それならばジャックされたり、暴発することはない。


 しかし、それでは単純すぎる軌道かつ威力不足だった。ペリカンの盾で簡単に防がれてしまう。


「万策尽きたわね!これを食らいなさい!」


 ペリカンの機体周辺に小さな稲妻が発生し大剣に収束する。そして、一筋の雷撃をタートルへ向けて放った。

 光の速度の一撃。タートルが避ける事もできるはずが無く、直撃、タートルのミサイルポッドが次々に爆発していく。


「クソっ!」


 タートルはすぐさまミサイルポッドを切り離す。主に雷撃を受けたのは機体正面だったため切り離し後は、正面は本体が露出していた。つまり雷撃は本体近くまで到達していた。また、切り離しの判断が遅かったためか、ミサイルポッド爆発の余波がタートルへ到達する。


「しまった」


 言い直そう、雷撃は本体にまで到達していた。余波が本体を傷つけた。スカイルーラーであるシェルタートルの絶対の"障壁"が消えている証拠であった。


「トーカぶちかませ!」

「了解!」


 チャンスとふんだガラン達は手中に収めていたミサイルを一斉にタートルに向けて飛ばす。


「ちぃ!」


 タートルは装甲の隙間からヤマアラシのように機銃を出してミサイルを迎撃しようとする。が、密な弾幕にもかかわらずなかなか当たらない。

 よく観察するとミサイルが不規則な機動をしており、明らかに機銃を躱していた。まるで一つ一つ意志があるように。


「言ったでしょ。手の中だって」


 ミサイルの一つ一つをトーカが制御していた。


「仕方ない!」


 このままではかわしきれないと判断したタートルは一部ミサイルポッドをパージして、ヒトガタ形態に変わる。背面に大きな直方体を背負った特徴的なシルエットだった。四肢のスラスターを駆使した細やかな機動で回避を試みる。しかし、あまりに数が多すぎて、全てを避けきれずに着弾した。


「くそっ!」


 破損により音声の変換が無くなる。女性の声だった。


「その声は!?」


 ガランにはその声に聞き覚えがあった。


「都市の門で助けに来てくれた、確かサーバル!あんたもパーチに!」

「ふっ!やはり、あの時の少年か」


 そう、ガラン達を殺そうとしていたのは、ガランが都市の門で門番に拘束された時、助けてくれたサーバルの人だった。


「助けてもらった事には感謝している。でも、何で空中空港を襲撃するんだよ!あそこには地上の人間、空と関係ない人もたくさんいるじゃないか!」


「あれこそが、空から地上を繋ぐ楔なんだ。

 空と地上との戦後、地上はもう十分やっていけるが、空はもう単体ではやっていけない。だから縋りついて地上をまだ戦前のように支配しようとしている。

 その結果が都市という光とその周辺そスラムという闇を作っている。地上の人間は空から都合の良い話に踊らされているんだ。そのリソースを何故スラムに使わない。君も体感しただろう?都市な内外との格差を、差別を。その根源を立たなければならない!この楔の破壊こそが第一歩なんだ!」


「なるほどね、確かに差別は酷い。俺は市民IDが欲しかった。スカイルーラーに挑戦したかった。でも…どんな手を尽くしてもダメだった」

「それは辛かったな。だが、諦めるな、君の腕は確かだ、空中空港を堕とすのに協力してくくれば君もスカイルーラーへの道を用意しよう。それが我々にはできる」


 タートルはガランを味方につけようとしていた。ペリカンという兵装はタートルが相手するにはあまりにも分が悪すぎるのだ。暫く沈黙の後、ガランが口を開く。


「でも空中空港には俺の知り合いがいるんだ」

「悪いが、時間が押しているその人の運命は変えられない。だが、この作戦が失敗すれば、差別は続く。きっと君が夢を叶える事は出来なくなるだろう」


 夢、ガランにとってそれは正式にスカイルーラーに出ること。そこには大きな壁があった、越えることが難しく不可能に近かった。


「夢こそが俺の全てだ。その為に頑張ってきた。馬鹿にされようとも頑張ってきたんだ」

「ガラン!?」

「そうだろう?それじゃあ――」


「けど、あいつのいない世界で1人スカイルーラーに出たって意味がない!二人で一緒に出る約束だからな!」


 ガランは諦めて無かった、この壁を自ら越える事を、ヒナとガラン、2人の約束を守る事を。

 イージスペリカンが構える。剣先をピタリとタートルへ向ける。


「そうか…仕方ない。いや、あいつを傷つけたお前を形でも許すのは無理だったから、必然か」


 タートルが先程の一斉射、程とはいかないものの大量のミサイル発射した。


「そんなもの!…!?」


 トーカがさっきと同じようにミサイルの軌道を変えようとしたが、ペリカンの効果がない。それどころか、イージスペリカンのシステムがミサイルと認識していない。

 このミサイルはステルスミサイルと呼ばれるレーダーやセンサ類をかいかぐる工夫が凝らしてある代物あった。"ペリカン"はミサイルや炸薬の搭載した飛翔体を"認識"して初めて機能するため、この場合ジャックすることはできない。


「操れない!ガラン避けて!」

「数も少ない、弾速も遅い、問題ない!」


 そういうとガランはミサイルに自ら向かっていき、大剣や盾を駆使して破壊したり避けたりしてタートルへ到達する。


「なっ!?」


 予想だにしない行動にタートルは反応に遅れてしまい、イージスペリカンの振り下ろした大剣に直撃した。

 機体は破損し行動不能になる。


「今、どこら辺だ、ここ」


 2機は戦闘していく中で大きく移動していた。そして、いつの間にか遠くではあるがパーチが見える位置まで来ていた。


「まだギリ間に合う、テロ開始まで」

「ふっ…もう手遅れだな」

「何だと!」

「フォックスとかいったか、そいつがハッキングした時点で"作戦"は早まっている、お前の知り合いはもう巻き込まれてるさ」

「なっ!?てめぇ!」

「待ってガラン、じゃあ何であなたがパーチに行くの?フォックスの記録では今日ハッキングしたのよ。エキシビョンレースは定時通り行われた。あなたは作戦に間に合わない事になる」

「セキュリティが固くて運べなかったんだよ。サーバルの息のかかったエキシビョンレースに持ち込まなければな」

「何を運ん――」

「おい!お前背中の箱をどこにいった!?」


 ガランがトーカの言葉を遮る。タートルがヒトガタ形態になった時に背負っていた直方体、それが無くなっていた。


「「まさか!!」」


 ガラン達はパーチの方角を見る。直方体が飛んでいき割れ、そして中から一発の大型のミサイルが飛び出した。


「空との地上を繋ぐあの空中空港パーチだ。コアは普通の兵器なんかじゃ破壊できない。"作戦"の手始めはパーチへの襲撃、このミサイルを妨害させない為の工作はもう始まってる。そして作戦はパーチが堕ちる事で終了するのさ」

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