第16話:虐殺


「この飛び方って…」


 ヒナは空中空港パーチで自分の便を待っていた。彼女は先程から自身の携帯端末に釘付けだった。


「どうした?」


 隣に座っていた老齢の女性が気になって問うと、


「主任、知り合いの飛び方に似てるなって」

「知り合いって?廃墟…失礼…ヒナの前の家にいた彼?」

「はい」

「何のレース?」


 主任と呼ばれた女性は携帯端末を覗き込んだ。そこに映っていたのは、先程までいた都市で行われているスカイルーラーのエキシビジョンレースだった。


「流石にないでしょ」

「…ですよね」


 スカイルーラーはレースの最高峰、今のガランでは参加は絶対に不可能であった。頭ではわかっていたが、それでも引っかかるものがあった。

 もう一度画面に視線を戻すと、そこにあったのは間違いなく何度も目にした姿、軽快に岩柱を駆け抜けていくその飛び方。

 脳裏にガランの顔が浮かびあがり、昨日の出来事が思い出される。


「あぁ…何で喧嘩ちゃったんだろう…いつ会えるかも分からないのに…会って仲直りしたい…」


 ヒナが深いため息をついて、俯き、うなだれいると、


 突然、耳をつん裂く様な警報が空港内に響き渡り、人々の不安をさせる。天井から吊るされている掲示板には赤文字で"緊急事態です。スタッフの指示に従って冷静に行動してください"と表示されていた。


「きょ、許可がないと困りますぅ」


 空港のスタッフの情け無い声が聞こえた。


「もうその段階ではない!」


 スタッフが、口論している相手は火器を肩から下げていた。この場所で武器の所持を唯一許されている、このパーチの防衛隊だ。胸には鷲をかたどったエンブレムのバッチが輝いていた。

 防衛隊の長らしき人物が、話にならないとスタッフを押し退けて進もうとしたその時、


 軽くそして大きな音が空港内に何度も響いた。


「…え…?」


 ヒナから見える主任の後頭部から赤い液体が流れ出ていた。主任はそのまま崩れるように倒れ、床で小刻みに痙攣している。

 状況が飲み込ず固まるヒナの耳に大きな音が飛び込む。それも連続して。顔を上げるとロビーに黒いツナギの者達が人々に向けて銃を乱射していた。彼らの胸には、ある動物をかたどったエムブレム。それは跳躍により鳥を狩る肉食動物、サーバルであった。

 サーバルの凶弾により前の方から血飛沫が上がり、それが打ち寄せる波のようにヒナへ近づいてくる。迫る死を前に彼女は呟いた。


「…また会いたかったな」

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