第13話:焦り

 一斉に各機体が飛び出した。どの機体も一気に加速し、音速を置いていく。


「さあ!はじりました!年に一回!この都市でのエキシビションレース!戦後復興や繁栄を願って開催されるこのレース、今年も名だたるレーサーが参加来てくれましたね!ワタナベさん!」

「そうですね!今年は特に素晴らしいですよ!鉄壁のイージスペリカン、ミサイル弾幕のシェルタートル、全方位型のd.ジェルフィッシュ、速度と近接のソードアリゲーター。誰が優勝してもおかしくありませんね!」


 風景が高速で後ろへ流れて行く。ガランが都市外で搭乗しているヒトガタとは比べものにならないスピード。レースの最高峰、ガランはこれまで体感した事の無い世界に気持ちが高ぶる。しかし、それ以上に彼の心を支配していたものがあった。


「クソ!縮まらない!」


 スクリーンのテロ開始までの制限時間の下、また別にマイナスのついた時間が表示されてた。それは、トーカが分かりやすい様に配慮してつけた目標時間との差である。つまり、マイナスは遅れていることを表し、このままではテロ開始には間に合わない。


 ガランは狭まる視界の中、必死に前の機体について行こうとするが、そのシルエットがだんだん小さくなっていく。相手はプロ、トーカのサポートがあるとはいえ初めての機体、レース、ガランが追いつけない最もらしい理由は幾つもあるが、1番影響しているのは焦りであった。

 今のガランの機体操作は荒く、スラスターを無理矢理吹かして強引に飛んでいる。その為、機体の機動に余計な動作が入り、コーナリングひとつをとっても差はプロと比べて大きくなってしまう。そして、差が広がるとスラスターのスロットルを無意識に上げてしまい、事態は悪化の一途を辿っていた。


「…ン…ラン…ガラン!!」

「ハッ!」


 焦燥感に溺れてしまっていたガランをトーカの声が呼び戻す。


「かはっ!」


 肺に空気が入る。呼吸をする事すら忘れていた。咳き込みながら肩を上下させて呼吸を整える。


「大丈夫?」

「大丈夫だ。悪い、ありがとう」


 機体操作をしつつガランは深呼吸をする。


「焦るなっていう方が無理だと思うけど、いつもの通りに飛べばいいと思うよ。私もいるし、サポートするから」

「ああ、そうだな。いつも通りに飛んでみるよ」


 その後、機体の機動が明らかに変化する。スラスターは最小限にとどめられ、他の機体と距離が急激に縮まるとはいかないが、これ以上遅れる事はなかった。自然とマイナスも少しずつ減っていく。


(こんなところでへばってちゃ、この先はやっていけない。このスピードエリアで)


 ガランは視界の端でレースのコースと他の機体の位置がわかるミニマップをみる。ガランの今乗っている機体"イージスペリカン"の鳥を模したアイコンは、今Sエリア1と表示された青色で表示されたコースを飛んでいる。そして、そのエリアをもうすぐ抜けて赤のコースへ入ろうとしていた。


「さあ今現在、トップを走るのはシェルタートル!次にソードアリゲーター、d.ジェルフィッシュです!シェルタートルは今回も上手くトップに躍り出ました!やはりアレを狙っているのか!」

「おそらくそうでしょう。行手を阻み他の機体が前に出るのを抑えるシェルタートルのテクニックには毎回惚れ惚れしますね」


 実況者が興奮気味に現在の順位を言う。


「トーカ備えろ!もうすぐバトルエリアに入る!」


 ガランの正面には空中に赤いホログラムのラインが引かれていた。

 "バトルエリア" これからが他のレースとは違うスカイルーラーの本質、本戦である。

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