第12話:スタート
コックピット内では、夜空に散りばめられた星のようにボタンやスイッチが小さく光っていた。
「さて…どれから手をつけたものか」
「ガランが触ってもしょうがないでしょ」
トーカの声だ。しかし、姿が見えない。
するとガランは上着の下に手を入れ、黒い立方体を取り出した。
「右レバー下に接続端子があるでしょ?そこの近くに置いて」
ガランは言われた通りの場所に置いた。すると黒い立方体トーカから、4つの短い足が生え、トコトコと歩いていき、頭頂部から黒いケーブルがうねりながら伸び、差し込み口に入っていった。
「しばらく時間がかかるわ。機内や格納庫のカメラにはフェイクを流してるけど、警戒は怠らないで」
「了解。お前なんでもできるな。偽造IDとかハッキングとか」
「当たり前でしよ!ヒナ様につくられたんだから!」
正面スクリーンにはプログラムと思われる文字列が、高速で上に流れていく。
「…会ったら、ヒナ様に謝りなさいよ」
「なんだよ急に…」
「ヒナ様、泣いてたよ。二人でどんな会話があったかわからないけど、3年ぶりに再会してこれじゃあんまりだよ…」
ガランは俯いて指先を重ね合わせ、強く握った
「…あれは、俺が悪かったんだ。…会ったら謝るよ」
「約束ね」
「ああ」
しばらくの沈黙を経て、
「それにしても、無理矢理な事を考えたわね、確かにスカイルーラーなら空中空港までひとっ飛びだし、今回のレースコースは空中空港でまでの最短になるけど、忘れてない?レース途中で撃破されてもダメだし、ある程度上位キープしてないとテロ開始まで間に合わないんだからね?」
「ああ、それもわかってるよ。最近の俺らは負けなしだろ?いけるさ」
「そう簡単にいけばいいけど。それに――」
二人の会話を遮るように電子音と共に辺りが明るくなる。ガランが顔を上げると、正面スクリーンにwelcomeと表示され、パッと消えたかと思うと、格納庫内の映像が映し出された。
「うまくカメラやセンサーが動いてる。いけるぞトーカ!操縦系は…共通規格だからいけそうだ。兵装は多いな...」
「それは私がバックアップする。操縦系もある程度はアシストするわ。ガランのクセとかわかるし」
「ああ」
「あーそれと」
正面スクリーン左下に赤文字のカウントダウンタイマーが表示され、すぐに動き始めた。
「これがテロ開始までの残り時間。私達はこれが時を刻み終える前に空中空港パーチに着かないといけない。着いても何ができるか分からないけど――」
『もう間なくレース開始の時間です。選手は所定の位置に移動してください』
格納庫内にアナウンスが流れた。
「そろそろか」
ガランの胸が高鳴る。スカイルーラー、憧れの場所、そしてヒナを助けられる、今考えられる唯一の手段。
ガランは機体を動かし、それに合わせて格納庫のハッチが開く。
視界を埋め尽くす観客達が彼らを迎える。
機体を格納庫から出すと自動操縦が働き、レース開始位置まで移動した。
目の前には他の機体が並んでいた。スカイルーラーが好きないつものガランなら、興奮してそちらに目がいってしまうのだが、今日は冷静に目を瞑り、息を吐き、自身を落ち着けようとしていた。
鼓動を感じる。
空中に3つのランプが表示され、これが3つ灯った時にレースは開始する。
ラッパのような様な音と共に一つが灯る。
ガランの口が乾き、トーカが何かを言っていたが頭に入らない。
「落ち着け俺、落ち着け俺!」
2つ目が灯る。
呼吸が浅い。
「これを逃せばヒナに二度と会えないんだ」
3つ目が灯る。
スタートを知らせるブザーが鳴り響く。
「レーススタート!」
ガランとトーカの戦いが、今、始まる。
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