第10話:夢
見渡す限りの赤い荒野をホバーバイクが走っていた。短い草木が揺れ、スラスターの低い音だけが響いている。数はたった一機、いや、正確には一機ではない、地上からでは見えないだけだ。鳥の様に空から見下ろせば、指で撫でれば消えてしまいそうな小さな複数の影が見える。それだけその一機と他のホバーバイクには差がついていた。
その一機が荒野に引かれた白い線の上を走り抜け、歓声が湧き起こる。そのホバーバイクは緩やかに減速、停止した。
そして、機体上部のハッチが勢いよく開き、
「おい!なんだこれ!凄いじゃねえか!!」
レースでトップで独走していたホバーバイクの操縦者はガランだった。ハッチから身を乗り出して叫ぶ。彼は今にも踊り出しそうなほどはしゃいでいた。
「フフフ!当然でしょ!私にかかればこんなもんよ」
ヒナが腕を組み、得意げな表情をして歩いてきた。今日は、ヒナがガランの機体を整備して初めてのレースであった。
「それでどう?今後は?」
「ああ!もちろん、これからも頼むよ!これでもっと自由に飛べる!」
この後、勢いにのった2人は、その1週間行われた周辺地域のレースを総なめにしたのであった。
とある日の朝
「徹夜はするもんじゃないわね…ふぁあ眠い…」
ホバーバイクの整備及び改造を夜通しで行っていたヒナは、大きなあくびとともに背伸びをした。
「水浴びでも…ん?」
ガランとヒナの二人はレースで手にしたお金を使って家を建てていた。部屋はそれぞれあり、いつも各々自分の部屋で寝ている。
ガランはレースがない日は、この時間は普段ならば寝ている。が、今日は扉の隙間から光が見えていた。
ヒナが扉にそっと近づき、中を覗くと床に雑誌が散らばってい た。
「昨日見つけたスカイルーラー通信、最高過ぎるだろ!はぁ!やっぱすげえなぁ!俺もいつかスカイルーラーで飛んで、ここに載るんだ!」
ガランが一人、目を真っ赤にしながら雑誌を熱心に見ていた。
「あ?」
「あ…」
ヒナの足が扉に当たり音が出てしまった。2人の目が合う。ガランはすぐさま雑誌をまとめあげ、背後に隠した。
「な、なんか用事か?」
「いいや」
ヒナは部屋に入りガランの傍に腰を下ろすと、
「私ならスカイルーラーの実際のレースの映像ハッキングできるよ」
「マジか!!って、覗いてたのかよ…趣味悪いぞ…」
ガランは口をへの字にし、細めた目で批判する。
「なんで隠すの?スカイルーラーに出たい事とか」
ヒナは気にする様子もなく続けた。ガランは大きくため息をついて頭を掻き、
「皆んな笑うんだよ…都市の外の人間じゃ、スカイルーラーに出ることはできない、挑戦すらできない、それが常識。身の丈にあった夢を見なって。まあ、笑いたきゃ笑えよ。馴れてる」
「私は、笑わないよ、それに」
ヒナは立ち上がり微笑んで、ガランに手を伸ばした。
「もしスカイルーラーに行くなら私が必要でしょ?」
「え?は?」
「あんたの馬鹿みたいに荒い運転に対応できる整備はいないでしょ!あと、私もスカイルーラーいじりたい!」
ガランは数秒きょとんとしていたが、笑顔になり、
「ふん!俺以外にお前みたいな口の荒い整備士とやっていけるやつなんていないだけだろ」
「何よそれ!」
二人は声を出して笑った。そして、ガランはヒナを手を強く握り、
「二人でスカイルーラーへ行こう、約束だ!」
「うん!」
――現在―
「あの時は同じ夢を追いかけていれば、一緒の時間も長くなると思ってたな…」
ヒナは頬杖をつきながらボーっと窓の外を見ていた。彼女の乗る飛行機は、もうすでに空中空港パーチに向けて空を飛んでいた。
もうここからでは二人過ごしたあの場所はもう見えない。
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