第6話:逃避
「ガラン…」
トーカが玄関から声をかける。
「なんで!なんで!久しぶりに帰ってきたのに!なんで!喧嘩なんか!」
「…」
ガランは何も答えなかった。何も答えず、顔を伏せてその場から逃げるように玄関へ足を運ぶ。床板の軋む音がただただ響く。
「どこに行くのよ!」
「どこでも…いいだろ!」
そう吐き捨てトーカの言葉が聞こえぬよう耳を塞いでガランは家を出た。ふと見上げた空は、厚い雲に覆われ澱んでいた。
「ちくしょう。せめてこんな時くらい晴れてくれよ…」
ガランは彼のヒトガタ"テイコウ"に乗り込んだ。運転席正面に広がるアナログなスイッチ群を慣れて手つきで操作し、最後に赤いレバーを引いた。甲高い音共に、跪く姿勢で待機状態だった鉄の巨人が立ち上がる。内側に響く振動、ジェネレータが安定すると共に小さくなっていく。
「俺は…俺はぁ!!」
機体の背部の二つの大きなスラスターが光を放つ。加速。ガランの体を急激なGが襲う。しかし、彼は奥歯を噛み締めつつも、その加速を緩めなかった。
テイコウの生み出した衝撃が、風圧が、地面の砂を吹き飛ばし、荒野に一本の道を作り上げていく。
しばらくして、テイコウの速度は徐々に落ちていった。
「はぁはぁ」
ガランは息を切らし、俯く。
「何やってんだ俺は…」
頭を手で掻きむしる。
その時、とある計器の赤いランプが点滅する。その計器はいわゆるレーダーであった。レーダー上では一つの白い点が右から左上へ移動していた。つまり何かしらの大型機械がテイコウの前を通り過ぎていく事を示している。
ガランが望遠で見てみると、一機のヒトガタが荒野を飛んでいた。
現代における一般的なヒトガタは、外の風景はカメラ越しに見るのが主流なのに対して、その機体は戦闘機のようなガラスに覆われたキャノピーを備えた珍しいものだった。そのためよく見ればガラス越しにパイロットが見える。
「フォックスだ!」
その機体に乗っていたのは偽IDをガランに掴ませた張本人である情報屋のフォックスであった。
その姿が昨日の最悪な記憶を呼び起こす。
「あのやろう!許さねえ!」
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