第三話 雷撃のレンファ

三人が去った後


「ついに始まっちゃったか」


一人残ったハザマが憂鬱そうな声で呟く。


「はぁ、思い通りには行かないものだなぁ」


顎に手を当て思考を巡らす。


「(計画通り進めるのは……無理だ,今の二人を思い通りに動かす事などできない。

 そもそも、到達者一人でも手に余るのに二人になってしまうのは想定外だ。

 胤ノ介さんの方はかろうじて取引が成立してるから、まだ可能性がある。

 菫…四姫さんには完全に警戒されていて交渉の余地もない、約束も反故にされた事から今後取引するのも危険か…せめてスキルが無ければなぁ)」


一度召喚した魂は龍華の輪廻に囚われる。

同じ条件で召喚を行なっても同じ人物が現れることは絶対にないのだ。


「(こうなるなら、召喚時にもっと厳しい条件で縛りつけるべきだった?

 否、そうすると目的のスキルが付与される確率が下がる、そうなれば本末転倒。それに彼の者達みたいになってもらっては困る…)」


召喚時に魂に枷を条件付けることが可能であり、二人には召喚者に危害を加えることを禁止しているのみであった。

もっと厳しく条件付けをすることも可能なのだが、そうすると魂にも影響が出てきてしまう。

今回はそれだと意味がないのだ…少しでも確率を上げる必要があった。


「あーだめだ、どうやっても当初の計画通りには戻らない」


考えすぎて頭を抱えこむ。

どう足掻いても、今後戦いになるのは明白だった。


「はぁ、極力死人は出したくないな…話し合いで解決できればいいけど」


未だに村では戦闘音が鳴り響いている。


「やるしかないか」


そして先に行った三人に追いつくため、ハザマも移動を開始する。



ビョウ村西門周辺

エリンのことは見失っていたが、戦闘音は鳴り響いていたのでとりあえずそっちの方角へ向かって移動していた。


「なんで西門に向かっているの?頼まれたのは蔵の守りでしょ?」

「…エリン達に死なれても目覚めが悪いからな、とりあえず戦闘を終わらせる」


ついて来た四姫の問いに答える義理はなかったのだが、答えないでいると質問責めに合いそうだったので大人しく答えた。

半分は本当だがもう半分は戦に興味があったのだ、話では聞き及んでいたが前世は基本的に太平の世だったので、大きな戦を目にしたことがなかった。


「ふ〜ん、そうなんだ」


納得したようだが、どうも本心を見透かされているような気もする。


戦の音が近づいてきた、状況を把握するために周囲で1番高い家の屋根にひとっ飛びで登る。

身体能力が飛躍的に向上しており、2階建ての建物程度なら助走も無しに登れるようになっていた。

便利な体になった者だと心の中で思った。


屋根上から戦闘が繰り広げられている広場を見下ろす。

敵の侵入したきたであろう門は壊され半開きのような状態になっている。

門の手前は少し開けた広場になっており、広場では60人程度が小規模な小競り合いをしていた。


門隣の櫓の者が矢を射かけて後続が入ってくるのを防いでいるようだ。

乱戦の中に突っ込んでいく人影が見えた…エリンだ!


自分達より先に着いたエリンは戦いに乱入していった。

側から見てもエリンの動きは早く、神速と言ってもいい。


手に持った小剣で的確に急所を貫き一人また一人と確実に仕留めている。

拮抗していた戦場はエリンが参戦したことであっという間に流れが変わった。


自分たちが介入するまでもなく広場の敵は掃討された。


「「「おぉぉぉーーー!」」」


広場は勝利の雄叫びに包まれた。


「なんだ、強いじゃないか」


俺に戦ってほしいとか言っていたので、てっきりエリン達は弱卒だと思い込んでいた。


それに今の戦いにはどっちにしろ介入出来なかっただろう。

何故なら敵味方の区別が付かなかったのだ、介入しなくて戦いが終りホッとしていた。


「よかったね、戦う必要なくて」


四姫が当たり前のように尋ねてくる。


(こいつは殺された相手に対して少しは警戒しないのか?)


この違和感はどこからくるのか…

死なないからなのか?

何事もなく接してくる四姫の行動に恐怖すら感じてしまう。


さっきから何度も追い払おうとはしている。

その度に悉く躱わされてしまう。

スキルを使ってもダメだった。

いくら考えても理解が出来ず、だんだんと不安になってくる。


「お前の目的はなんだ?」


話などしたくないのに、不安な気持ちになったせいか問いかけてしまう。


「目的?うーん、胤と生きること…かな?」


思いもよらぬ答えに驚愕した。

でも何故だが似たような言葉を昔に聞いた記憶があった。あれは確か…


「もしか」

「やっと追いついた。お二人とも早いですね」


話かけたところでハザマが合流してきた。

早いと言ったが特に息が上がっている様子もない。

別に着いてこれなかったわけではないのだろう。


だが、突然話しかけられたせいで、何を思い出そうとしていたのか分からなくなってしまった。


どうせ思い出したところで何も変わらない。

今はそう思う事にした。


「もう戦闘は終わったみたいだぞ」


そう伝えるとハザマが広場の方を確認する。


「手遅れでしたか…あれは騎馬装備?」


ハザマは目を凝らして敵兵士の亡骸を見ている。


「まだです。おそらくこの部隊を率いているのは」

「雷撃槍!!」


ドッ、ゴーン!!


ハザマが話し終わる前に村が襲撃された時と同様の衝撃音が鳴り響いた。

門は完全に破壊され、広場全体が砂埃に包まれる。


「我名はレンファ!!この村で一番の高星と一騎討ちを所望する!!」


砂埃の中で男の声がする。

すぐに砂埃は晴れ、中から体長2m程の大男が現れる。

全身に鉄鎧を着込み手には自分の身長の倍はあろう長槍を携えている。


「一騎討ち?古くさいやつだな」

「古い?胤ノ助さんの世界ではどのように勝敗を決めているのですか?」


ハザマが瞳に魔力を宿らせながら聞いてくる。


「そうだな、戦の事情にもよるだろうがお互い戦えなくなるまでが基本だったな。こっちの世界は一騎打ちで決まるのか?」

「ええ、初めは交戦しますけど最終的には一騎討ちで勝敗が決まります!」


ハザマは誇らしそうに話をしていた。

そんなことが?と思ったが遥か昔の戦はそうだったと聞いたことがあったので少し納得してしまった。


「そういうものか…あと前から気になっていたんだが、お前のその瞳の魔力は何なんだ?」

「あ…気が付かれてましたか」


瞳の魔力の事で何か後ろめたいことがあるのか、いつもハキハキ話をしているハザマが言い淀んでいる。


「これは…魔法です。鑑識魔法と言い対象のスキルなどの情報が分かるようになります」

「なるほど、それで俺のスキルのことがわかっていたのだな」

「え、ええ、そうです」


何か見落としているきがしたが、魔法のことは何も分からないので納得するしかなかった。


「私がこの村で一番の高星だ!」


話している内に広場の方で動きあった。

さっきの攻撃の余波で広場にいた者達は相当ダメージを負ったようだ。

雄叫びを上げいたのが嘘のように静まり返っていた。


エリンも余波で怪我をしているようだったが辛うじて軽症のようだ。

だが、おそらくあの怪我抜きにしてもあの大男には勝てないだろう。


「あいつ負けるぞ」

「僕もそう思います」

「仕方がない、一騎打ちが始まったら俺が後ろから敵を切る」

「何を言っているんですか一騎討ちですよ?」

「戦だろう?味方が死ぬのを見過ごすのか?」

「この世界では正々堂々と戦うことが何より大切なんです。一騎討ちの最中に邪魔なんてしたら味方がいなくなりますよ」

「何を呑気なことを…」

「一騎討ちは正々堂々戦い盟約を守る。これが龍華のきまりです」


ハザマが言うには一騎討ちには“盟約決闘“という規定があり、当事者双方の同意のもとに盟約を結んでから一騎打ちを行い、勝者は何があろうと盟約を果たすことになっているそうだ。

その規定に正々堂々などと謳っているらしいが…

盟約決闘の規定について反論したくなったが、豪に入れば郷に従えということわざもある。

素直にその“規定“に従うことにした。


だが、胤ノ助は知っている。

戦は何でもするのが当たり前だと、奇襲、不意打ち、騙し討ち…

何をしても最後まで生き残ったものが歴史の勝者で幾らでも話は作れることを。

「(一騎討ちで戦の勝敗を決めるなど遥か昔の様式だろうに…)」

この思いは言葉にはしないで心の中でそっと思うことにした。


「なら、俺が一騎打ちに名乗りをあげよう。エリンが死ぬより、俺が死んだ方がこの村にとってはいい」

「ほ、本気ですか!相手はかなりの手練ですよ」

「ああ、本気だ!ちっ早く動いた方がいいな」


そうこうしているうちに広場では状況が進んでいた。

今すぐにでも一騎討ちが始まりそうだ。


急ごう!そう思い動こうとした時に気がついた。

四姫がどこにもいないのである。


一体何をするつもりなのか、皆目見当もつかない。

どっちにしろ自分の力では止めることができないのだ、好き勝手させるしかない。

聞きたい事が山ほどあったのだが…


ビョウ村西広場

対峙する二人は闘争心を剥き出しにして睨み合っていた。

エリンは弱みを見せないため気丈に振る舞っていたが、吹き飛ばされた時のダメージはそれなりに受けていた。


「ほぅ…お主が戦うと」


レンファと名乗った男は値踏みをするように目線をエリンに向ける。


「あぁ、だが盟約は交わしてもらうよ」

「ハッハッハッ!亜人の分際で盟約のことをを知っておったか。よかろう!こちらもはなからそのつもりじゃった」


空を仰ぎ高笑いをした後、エリンに槍先を向け高らかに宣言した。


「では改めて名乗ろう!全に属する武将が一人“雷撃のレンファ“残党への追撃の禁止、おぉそれと戦死した者の供養もしてもらおうかの」

「普通盟約は一つだろう…まあいいその条件でいい。こちらはビョウ村の長“エリン“盟約は私以外の村民に手は出さないこと」

「あいわかった。その盟約守ると誓う」


お互いの口上が終わる。

双方の同意が成立し一騎打ちが始まろうとしていた。

レンファが槍を構え、エリンが小剣を逆手に持つ


「いざ」

「尋常に!」


まさに一騎討ちが始まるその時だった。


「待った!!」


二人の間に胤ノ助が滑り込むと同時にレンファの方を向いて宣言する。


「この一騎討ちは俺が請け負う!」


レンファは状況が理解できず戸惑っていたが、エリンはすぐに反応してきた。


「お、お前には守りを任せただろう!なんでこんなところに」

「あんたをこのまま死なすより、まだ俺が死んだ方がマシだからな…恩返しだと思ってくれ」

「はぁ?!勝てるんだろうね?」

「ああ」


エリンの方は振り向かない。

きっと今の表情を見られたら、きっと任せてもらえないと思ったからだ。


「…わかったお前に任せるよ」


話がまとまったところでレンファのが問いかけてきた。


「お主もしかして人間か?」

「人間以外に見えるのか?」


どうやら律儀に話を待っていたのではなく、俺のことを観察していたようだ。


「…何を笑っているかは知らんが亜人どもの味方をするなら容赦はせんぞ!」


人間ということを否定しなかったからだろうか、言葉に怒気が含まれている。


「望むところ!」

「愚かな…」


足が震える、怯えているわけじゃないこれは武者震いだ。

自ら死を選んだ身でこんなことを言うのも変だが、命をかけた戦いというものをやってみたかった。


太平の世ではよくて木刀、真剣での斬り合いなど発生しなかった。

試合で運悪く逝くことはあれど、命をやり取りすることなど経験したことはなかった。


「良く考えればこの状況は願ったり叶ったりかもしれんな」

「何を言ってるか知らぬが、早く武器を構えろ!それとも素手でこの雷槍とやり合うか!」

「ああ、お前など素手で十分だ」

「クッッッ、ばかにするな!!」


こうしてのちに艸(くさ)の始まりと称される、一騎討ちの幕が上がったのだった。

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