本屋様

高宮 つかさ

本屋様

「先輩」

「ん」

「この本、先輩のっすか」

「ちがう。それは店に展示するやつだ。開いてみろ」

「うわ。なんも書かれてねぇ。こんなもん出していいんすか?」

「いいんだよ。盗むやつが悪い」

「てか、こんなに厳重にしないといけないんだったら、全部買っちまえばよくないっすか?」

「だいたい持ってるよ、『複製品』をな。…それに俺たちが飯食ってられんのは、あの人たちがこんな紙の集まりを買ってくれっからだ。あんま悪く言ってやんなよ」

「まぁ、一理あるっす」


「あれ、この本…」

「おい!そこのやつはあんまさわんな!」

「えっ。だって、ホコリだらけっすよ?」

「…いいんだ」

「…まあ、そんなに言うなら止めときます。すんませんでした」

「おまえ、謝れたんだな」

「チャラくても人情には厚い人間でいたいんすよ」

「そんなモットーがあるんなら、しっかり業務にも身をいれてほしいもんだね」

「それはキツいっすよー。ただ本並べて掃除だけかと思ってたのに」

「接客の時の言葉遣い。お叱り受けたぞ。…怒られんの俺なんだから、話す時くらい、こう…ピシッとしてくれないもんかね…」

「だって、あんなキツい言葉遣い、俺にあってないっす。もーちっと緩くなんないっすか?先輩も言ってやってくださいよ。あのおじさんたちに」

「言ってやってもいいが、その時は俺たち肉の塊になるだろうな」

「うげ。それは勘弁っす」

「そうそう、俺が入りたての時…」

「その話、耳にたこできました」

「本当なんだからな!あんときゃ…」

「あー。始まった。おっさん節」

「まだ20代だ」


「おい。そろそろいらっしゃるぞ。ネクタイ、直しとけ」

「了解っす」

「毎度なれねぇな。この待ち時間は」

「先輩も緊張するんすね」

「そりゃ、命かかってるからな。誰でも死にたかねぇもんだ」


キィィィィン…


「「いらっしゃいませ」」


『日本』『の』『書物』『を』『何冊』『か』『勿論』『実物』『を』『ね』


「勿論、状態の良い物をご提供させていただきます」


『ありがとう』


「いえいえ。いつも私の店をご利用していただいておりますから」


「これからも、今は亡き地球の書物共々、ご贔屓に」

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本屋様 高宮 つかさ @fukuro_

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