第十八章  智香の新たなる思い・・・ 

朝、大伴智香が再び目を開けた時には、隣に寝ていたぬいの姿はなかった。布団がきれいにたたんであった。何処へ行ったのか考えたが、智香に分かるもはずがなかった。彼女も布団をたたみ、どうしょうか考えたが何も思い浮かばなかった。

智香は庭の見える縁側に座わった。志摩の夏の日差しは強く、目に眩しかった。母真奈香が遊んだであろう、この広い庭にはつつじや池には菖蒲などが程よい間隔で植えられていた。

(ここに座り、何を考えていたのだろう?)

自分が背負ってしまった宿命を悲しんだのか・・・智香にはそうは思えなかった。あたいが今抱いている鬱陶しい気持ちに押しつぶされそうになりながらも、きっと胸を張って生きてきたに違いない。智香はそう感じた。いや、そう信じたかった。

ひんやりとした淡く小さな風が座敷に吹き込み、快く感じられた。その風につられふっと、その方に目をやると、白い長方形の箱が目についた。何処にでもあるティッシュボックスだった。智香はそのティッシュボックスから白いティッシュを二三枚取り出した。

(あの子たち、向こうの家に置いて来たけど、寂しい思いをしていないかな。一緒に連れて来れなかったけど、ごめんね。。あたいの気持ち、分かってくれていると思う)

智香は急に寂しい気分になった。

「さあ、あたいの新しい友だち、出ておいで」

智香はティッシュを一枚持ち、いつものように白い友だちを創り始めた。三つ創った。ここでも、名前のつけようのないものになってしまった。でも、みんな、今にも動き出しそうな形をしていた。

「さあ、いいわよ」

と、智香が声を掛けると、みんな動き出した。

「みんな、踊って!ここが、あたいの故郷なのよ。いいえ、お母様の故郷なのよ。一緒に遊びましょ」

と智香が声を掛けると、彼女の手から、生命を受けた三つの生き物が空に飛び出した。実際、彼らは奇妙な動きをしていた。滑稽だし、規則正しい動きではなかった。でも、みんな生命を与えられた喜びで一杯ようだった。

「わぁ」

智香は堪らなく嬉しい叫び声を上げた。彼らの楽しそうな動きに我慢できず、彼女は庭に飛び出した。白い創造物は、志摩の眩いばかりの青い空を飛び、舞っている。彼女の創る創造物は、今では鳥や犬もいる。中には、彼女が想像した奇妙な形をしたものもいた。彼女の器用さは増し、少しずつだがうまく創れるようになっていて、鳥とかは二三種類区別して創れるようになっていた。

「みんな、おいで。あたいの傍においで」

智香のこの声に、みんなは、といっても三つだが、一斉に彼女に集まって来る。彼女が回り踊りながら、庭を飛び回る。みんな、彼女の後を追い掛けていく。

「こっちだよ」

こんな智香を見るのは久しぶりだ。

そこへ、青田ぬいが帰って来た。智香の様子を見て、

「それは・・・真美奈香に教わったのですね」

ぬいは智香のやっていることに、少しの驚きも疑念を持たなかった。むしろ喜んでいるように見えた。ぬいの手には、スーパーの白いポリ袋を二つ持っていて、一つには二三匹の魚、そしてもう一つは野菜、油揚げ、豆腐が入っていた。座神のバス停からここまで来る途中、港に漁船が泊まっているのが見えたが、その内のどれかの船から貰って来たのかも知れない。ぬいは縁側に座り、

「この世の中には不思議で信じられない世界が存在し、目を疑うような現象が、ごく当然にように存在するのです。代々五十嵐の家に生命を受けた長女に、その力は受け継がれて来ました。それが今、智香様、あなたが受け継がれていいます。あなた様が最後の宿命なのです」

といった。

智香は・・・改めて、

(宿命・・・)

という言葉に、すぐに反応した。里中洋蔵が智香に投げかけた言葉であった。それが、今ぬいが投げて来た。考えると、重々しい気分になった。でも、智香自身、今その宿命をはっきりと意識をしている。

(もう逃げない)

と智香は誓った。

でも、白い友だちは、そんな智香の気分を察知したのか、彼女に近づいて来て、周りを回り始めた。慰めようというのか、

「うふっ。やめて、やめてよ」

智香はくすぐったそうな仕草をした。この時、彼女は人・・・気配を感じた。人じゃない。あいつ、洋蔵とも違う。

「誰・・・?」

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